教会旋法についてのまとめ。
教会旋法とは、簡単に言えばピアノの白鍵だけを使って作られる旋法のことです。
ドから始まるイオニア、レから始まるドリア、ミから始まるフリジア、ファから始まるリディア、ソから始まるミクソリディア、ラから始まるエオリア、シから始まるロクリアの7種類があります。
(イオニアはアイオニアとも言われます)
覚え方としては、各旋法の頭文字を取って「井戸振り見えろ」なんて言ったりします。まぁ使っているうちに自然に覚えますが…
カトリック教会で歌う聖歌にこれらの旋法(特にドリア・フリジア・リディア・ミクソリディア)が用いられたため「教会旋法」と呼ばれます。
これら4つの旋法は徐々に長調・短調化し、15~16世紀以降になるとほとんど見られなくなってしまいますが、ドビュッシーら近代以降の作曲家によって再び使われるようになりました。
一方ジャズ界では、マイルス・デイビスが教会旋法を利用して、モード・ジャズという新ジャンルを開拓しました。
そのため、「教会旋法」と言うとクラシック用語っぽいニュアンスですが、それを英訳して「チャーチ・モード」と言うと、どちらかと言うとジャズ・ポピュラー用語っぽいニュアンスになります。
英語圏でどのように使い分けているのかは私にも分かりません。
主音が同じ場合、♭が多いほど暗く、#が多いほど明るい旋法であるとされています。
つまり、主音が全てCならば「Cロクリア<Cフリジア<Cエオリア<Cドリア<Cミクソリディア<Cイオニア<Cリディア」の順番で明るくなります。
正格・変格
現代ではあまり関係ありませんが、中世ヨーロッパでは一つの旋法が正格旋法・変格旋法の2種類に分かれていました。
先程紹介したものが正格旋法で、一方、次のようなものを変格旋法と言います。
変格旋法は、接頭辞「ヒポ」を付けて表します。
ヒポドリアとエオリアは同じに見えるかもしれませんが、実はヒポドリアの主音はドリアと同じレです。
正格旋法と変格旋法は、主音は同じですが、旋法のレンジが4度低くなっているのです。
なぜこのような意味の無さそうなものが存在するのでしょうか。
それは、教会旋法が当初は作曲ではなく、聖歌の分類に使われていたためです。
数多ある聖歌の中で、レで終わる曲を「ドリア」とカテゴライズした場合、当然ながらそれらの曲の中には、比較的音域が高い曲と低い曲が存在します。
思いっ切り簡単に説明すると、カトリックの聖務日課やミサの入祭唱では、聖歌を歌った後に旧約聖書の「詩篇」と呼ばれる部分をメロディに乗せて読み上げるのです。
そのとき、聖歌の音域が高いのに詩篇が低かったり、聖歌が低いのに詩篇が高かったりすると、スムーズに移行できなくて都合が悪い。
よって、ドリアの中でも低めの曲を「ヒポドリア」という更なる小カテゴリーに分類し、高い聖歌(ドリア)の後は詩篇も高く、低い聖歌(ヒポドリア)の後は詩篇も低く歌えるように、組み合わせを分かりやすくしたということです。
ヒポイオニア・ヒポエオリア・ヒポロクリアという言葉は、一応存在しますがあまり使われません。
イオニア・エオリア・ロクリアの三旋法が教会旋法に加わる頃には、既に正格・変格の考え方は廃れていたからです。
ちなみに英語では、正格旋法は「Authentic mode」、変格旋法は「Plagal mode」です。
Plagalという言葉は「プラガル終止」でお馴染みですね。
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古代ギリシア
旋法の起源は古代ギリシアです。
古代ギリシア人は、全音階の一部を抜き取って以下の7つの旋法を考えました。
あれ…、名前が訛っているのは仕方ないとして、冒頭で紹介した7つの旋法とは開始音が異なりますね。
実は、本来旋法とはこのような音と名前の組み合わせでした。
先程説明したように、中世ヨーロッパの人達はこれらを用いて聖歌を分類することを思いついたのですが、そのときなぜか当時の音楽家が組み合わせを間違えたらしく、古代と中世以降ではズレが発生してしまったのです。迷惑な話です。
旋法を古代ギリシア式の組み合わせで呼ぶ人もいるので、混乱しないように注意しましょう。
古代ギリシア音楽について詳しく知りたい方はこちら「古代ギリシア音楽 前編」をご覧下さい。
では実際に一つ一つの旋法を詳しく見ていきましょう。
イオニア旋法
まずはドから始まるイオニア旋法ですが、これは見た目上は長音階と変わりません。
現代では最もポピュラーな旋法である長音階ですが、実はクラシック音楽の中では比較的歴史の浅い旋法です。
1547年に出版された、グラレアヌス著「ドデカコルドン」によって初めて正式な旋法として認められ、和声的な使い勝手の良さなどから一気に現在の地位に上り詰めました。
基本的なことがメインですが、一応こちら「長音階」でも解説しています。
ドリア旋法
次はこちら。「ドリアンスケール」「ドリアンモード」「レの旋法」などと呼ばれることもあります。中世ヨーロッパでは「プロトゥス」と呼ばれていました。
教会旋法の名前の由来は基本的に地名ですが、ドリア旋法はドーリア人が由来となっています。
現代の曲はほとんどが長調・短調ですが、中世・ルネサンス期はむしろドリア旋法の曲が主流でした。
ドリア旋法はファシ間の音程が増4度となっています。
中世ヨーロッパでは増4度は「悪魔の音程」として嫌われていましたから、それを防ぐためにシに♭が付けられるようになり、次第にニ短調へと変化しました。
また、曲の終止部分で主音へと滑らかに進行するためにドに#が付けられ、さらにピカルディー終止によりファに#が付けられ、次第にニ長調へと変化しました。
詳しく知りたい方はこちら「ドリア旋法」をご覧下さい。
フリジア旋法
続いてはこちら。「フリジアンスケール」「フリジアンモード」「ミの旋法」などと呼ばれることもあります。中世ヨーロッパでは「デウテルス」と呼ばれていました。
この旋法はファに#が付けられて、次第にホ短調へと変化しました。
一方、#を4つも付けるのが大変だったためか、ホ長調に直接進化することは無かったようです。
ただし、ピカルディー終止のためにソに#が付くことはありました。
教会旋法は、正格旋法の場合は基本的に主音の5度上(第5音)がドミナントとなりますが、フリジア旋法に限っては第6音がドミナントとなります。
詳しく知りたい方はこちら「フリジア旋法」をご覧下さい。
リディア旋法
次はこちら。「リディアンスケール」「リディアンモード」「ファの旋法」などと呼ばれることもあります。中世ヨーロッパでは「トリトゥス」と呼ばれていました。
この旋法は主音(ファ)と第4音(シ)の音程が増4度となっています。よってしばしば第4音に♭が付けられ、教会旋法の中では最も早く長音階化してしまいました。
詳しく知りたい方はこちら「リディア旋法」をご覧下さい。
ミクソリディア旋法
次はこちら。「ミクソリディアンスケール」「ミクソリディアンモード」「ソの旋法」などと呼ばれることもあります。中世ヨーロッパでは「テトラルドゥス」と呼ばれていました。
この旋法には導音がありません。しかしやはり曲を締めるときには導音があったほうが格好良いので、第7音にしばしば#が付けられました。
よって、これも教会旋法の中では割と早く長音階化しました。
詳しく知りたい方はこちら「ミクソリディア旋法」をご覧下さい。
エオリア旋法
次はラから始まるエオリア旋法ですが、これは見た目上は短音階と一緒ですね。
これもクラシック音楽の中では歴史が浅く、長音階同様、ドデカコルドンによって初めて正式な旋法として認められました。
短音階とエオリア旋法は何が違うのか。
…と言われても私もちょっと困るのですが、トニックやドミナントなど、和声の機能が厳格である曲を「この曲は短音階である」と言い、逆にその辺がルーズなものを「この曲はエオリア旋法である」と言うようです。
基本的なことがメインですが、一応こちら「短音階」でも解説しています。
ロクリア旋法
最後はこちら。
これは主音と第5音が減音程になってしまうため、安定した主和音を作ることが出来ません。
よって中世では(いや、現代でも)この旋法を使った曲は全くと言っていいほど存在せず、そもそも教会旋法の中に含めない人もいます。
詳しく知りたい方はこちら「ロクリア旋法」をご覧下さい。
今回の解説は以上です。