今日は、ディミニッシュト・スケール(以下dimスケール)と、コンビネーション・オブ・ディミニッシュ・スケール(以下コンディミ)という2つの音階について解説いたします。
dimスケール
まずはこちらです。
英語の発音の都合上「ディミニッシュド・スケール」と言う人もいます。私は面倒なので「ディミニッシュ・スケール」と言っています。
dimスケールとは、その名の通りdimコード上で使えるスケールのことです。
dimコード上でアドリブを弾くときって、何をすれば良いのか困ってしまいますよね。そんな悩みに答えてくれるのがこのスケールです。早速見てみましょう。
このように、音程が「全半全半全半全半」で構成されているのが特徴です。
スケールの構成音としては、CdimとDdimを足したような形になっていますね。
次に音数をよく見て下さい。我々が普段よく使う音階は7音で構成されますが、dimスケールは8音あります。
また、普通の長音階・短音階などは主音ごとに音階が12パターン存在しますが、この音階は短3度移調(カラオケで言うと+3)すると元のスケールと同じになってしまうため、全部で3パターンしか存在しないという不思議な性質があります。
上の譜例をよく見て下さい。
CdimスケールとE♭dimスケールは構成音が全く一緒ですね。同様に、C#dimスケールとEdimスケールも全く同じ構成になります。
以下、DdimスケールとFdimスケールも同じ。E♭dimスケールとF#dimスケールも同じなのですが、先程言ったようにE♭dimスケールはCdimスケールと同じなので、CdimスケールとF#dimスケールも同じ。以下省略。
つまり、Cdimスケール、C#dimスケール、Ddimスケールの3種類だけ覚えてしまえば、全てのキーに対応できるのです。面白いですね。
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スケールの秘密
では、このスケールの導き出し方を勉強しましょう。タネが分かればそれ程難しくはありません。
しかしいきなり「dimコードに合うスケールを考えろ!」と言われても途方に暮れてしまうので、まずは形が似ている「m7(♭5) コード」で考えてみましょう。このコードに合うスケールは何でしょうか。
(説明を簡単にするために、ルートはBとします)
はい、ダイアトニックコードのアヴェイラブル・ノート・スケールを理解している方は簡単ですね。ロクリアンスケールです。
ついでに、普通のロクリアンだと2番目の音がアヴォイドになってしまうので、半音上げて全ての音が使える状態にしてあげます。
ここまで来れば、あとは楽勝です。Bm7(♭5) とBdimの違いは何でしょうか。それは7度の音です。Bm7(♭5) の7度はラですが、Bdimの7度はラ♭ですね。
まずはスケールの第7音を、dimコードに合うように半音下げます。
次に、このままだと第7音と第8音(主音)の音程が増2度になってしまうので、ラ#音を追加します。
すると、Bdimスケールの完成です。
まぁ「アヴォイドを作らないように、コード構成音の全音上の音を並べただけ」と考えてもいいのですが、それでは面白くないので、上のような導き出し方も覚えておきましょうw
♭9thコードとの関係
別ページ「減七の和音(dimコード)」などで既に何度も説明していますが、dimコードとは♭9thコードからルートが外れた形です。
例えばBdimというコードはG7(♭9) のルート省略形です。
つまり、BdimとG7(♭9) は同じコードみたいなものなので、理論的にはBdim上でG7用のスケール(リディアン7thやオルタード等)を使っても構わないのです。
実際、これらのスケールはBdimスケールとかなり似ています。
(比較を分かりやすくするために、BdimスケールをG音から開始しています)
私はdimスケールがどうも自分の演奏スタイルに合わないので、これらのスケールを代用しています。
コンディミ
次にこのスケールを勉強しましょう。
コンディミとは音程が「半全半全半全半全」で構成されているスケールのことです。さっきのdimスケールとは音程が逆ですね。
構成音としては、今度はCdimとC#dimを足したような形になっています。
2つのdimコードが組み合わさった形だからなのか、それともdimスケールの別バージョンという意味なのかよく分かりませんが、ともかくこのスケールを「コンビネーション・オブ・ディミニッシュ・スケール」と言います。
しかし残念なお知らせですが、おそらくこれは日本だけの呼び方です。
英語ではdimスケールもコンディミも、基本的には両方とも「ディミニッシュ・スケール」と呼んでいて、区別するときには、dimスケールは「ホール・ハーフ・ディミニッシュ・スケール」と言い、コンディミは「ハーフ・ホール・ディミニッシュ・スケール」と言うようです。
ホールとかハーフというのは音程のことですね。
音程が逆になっただけなので、dimスケールとコンディミスケールは非常に性質が似ています。
コンディミスケールも、dimスケール同様8音スケールですし、全部で3パターンしか存在しない点も同じです。
先程同様、CコンディミとD#コンディミは構成音が同じです。
(比較を分かりやすくするために、一部エンハーモニックを変換しています)
dimスケールを、半音下の音から弾き始めるとコンディミになります。例えばCdimスケールをB音から弾き始めるとBコンディミになります。
コンディミはドミナント上で使えるスケールです。例えばG7上でGコンディミを使うことが出来ます。
このGコンディミが、実はBdimスケールと同じなのです。
つまり、先程BdimスケールはGリディアン7thやGオルタードスケールと似ているという話をしましたが、コンディミだったら全く一緒なのです。上手く出来てますねー。
コンディミの用途
今言ったように、コンディミはドミナントのときに使えるスケールです。
コンディミは、同じルートのリディアン7thやオルタードスケールに似ているので、それらの代打として使うことが出来ます。
しかし、コンディミにはリディアン7th程の素朴さは無いし、オルタードスケール程の鋭さも持っていません。ホールトーンのような浮遊感も無い。
どうも中途半端で、内野外野どこでも守れるからベンチには置いておきたいけど、スタメンには絶対なれない奴なのです。
しかも「ドミナント上で使える」とは言っても、それは「ドミナントのために作られた」という意味ではなく、「色々試していたらドミナント上で使えることが分かった」というだけのこと。
ではコンディミの存在意義とは一体何なのか。
もしや「全半全半…」があるなら「半全半全…」も作っちゃえw というノリで作られた「理論上の産物」でしかないのか。
中心軸システム
いえいえ、勿論そんなことはありません。中心軸システムという理論を使うと、その謎を解くことが出来ます。
中心軸システムとは、簡単に言えば「五度圏を十字で結んだコードは同じ機能を持つ」というものです。
これを十字で結ぶ。つまり、例えばC・A・F#・E♭の4つのコードは同じ機能を持ちます。コードだけでなく、調や単音についても同様です。
C・A・F#・E♭の各コードのコードトーンを、鍵盤上に並べてみましょう。
なんと、Cコンディミが出来上がりました!
つまりコンディミの正体とは、実は「同じ機能を持つコードの音を全部集めたスケール」だったのです!
面白いことに、コードにmを付けても、7thを付けても同じスケールが出来上がります。
極端なことを言えば、例えばキーがCメジャーだったら、トニック和音を使っているときはCコンディミ上の音は全て自由に使っていい、ということです。
中心軸システムについて詳しく知りたい方はこちら「中心軸システム」をご覧下さい。
ちなみに、ちょっと苦しいですが、一応dimスケールも中心軸システムを使って導くことが可能です。
先程BdimはG7(♭9) の仲間であると言いましたね。中心軸システム上で、G7(♭9) のコードトーンと同じ機能を持つ音を全て書き出すと…?
使用例
ジャズでは、dimスケールはdimコードのとき。コンディミはドミナントのときに使えばいいのですが、それだけの知識ではちょっと物足りないので、クラシックでの使用例も見てみましょう。
(以下、3つの動画を紹介していますが、なぜか上手く読み込まれないことがあります。文章と動画がなんかズレてるな~と思ったら、再読み込みをお願い致します)
まずは、バルトークのミクロコスモス第101番。
Diminished Fifth, Mikrokosmos, Vol. IV, No. no101, Béla Bartók
某RPGの洞窟の音楽みたいですねw
Dコンディミ(E♭dimスケール)で始まり、3種類のスケール全てを行ったり来たりします。
続いては、スクリャービンの5つの前奏曲 Op.74 第3番。
Scriabin 5 Preludes Op.74 - No.3
ちょいちょい半音進行を使うので分かりづらいですが、一曲ほぼ全てCコンディミで作られています。(楽譜は一番下の「39」と書いてある段からスタートします)
同じくスクリャービンのピアノソナタ第7番「白ミサ」
Scriabin: Sonata Op.64 No.7, "White Mass" (Volodos)
こちらもほぼコンディミを使って書かれています。1~2小節目がC、3~6小節目がD、7~8小節目がC#と、目まぐるしく変化します。
長い曲なので私も最後までは分析していないのですがw
コード進行
dimスケールやコンディミは、メシアンの「移調の限られた旋法」の第2番に相当します。
よって、スケール上の音を使って作曲する場合、特にコード進行の規則とか制限はありません。好きなように音を置いてください。
一応、メシアンは上のような終止法も考えたようですが、我々凡人には理解できませんねw(実際の譜面はもっと複雑なリズムですが、説明のために一部簡略化しています)
規則がない理由としては2つ。
まず先程言ったように、これらのスケールは同じ機能の音を集めたものなので、スケールをどのように弾いても「ずっとトニック」とか「ずっとドミナント」という状態が続くだけです。
コード進行していないのと同じようなものなので、規則を考える必要がない。
もう一つは、dimスケールやコンディミも「全半全半…」というパターンで作られているので、スケール上を移動しているうちに何番目の「全」なのか、何番目の「半」なのか分からなくなってしまいます。
よってⅠ・Ⅱ・Ⅲ…という分類が意味を成さなくなってしまうのです。
普通(?)の音階と連結させる場合も、これらのスケールを「トニック」とか「ドミナント」という機能で考えれば簡単に接続できます。
例えばC、Cm、C7などを置くべき場所に、代理としてCコンディミ(から作れるコード)を置くことが出来るということです。
ジャズではドミナントのときにしか使われないスケールですが、こう考えればもっと幅広い使い方が可能になります。
dimスケールもコンディミも、共に8音スケールなので、多様な和音を作ることが出来ます。3度堆積だけでなく、4度や5度堆積の和音を作っても構いません。(なかなか綺麗な形では作れませんが…)
また、ちょっと上級者向けのテクニックですが「ピアノの左手はCコンディミで、右手はC#コンディミ」といった具合に、混ぜて使うことも出来ます。
まだまだ理論の整備されていない分野ですので、色々試してみましょう。
さて、今回はdimスケールとコンディミについて解説いたしました。
コンディミ君、やっと君の使い道が分かったよ! 来年は年俸もう少し上げてあげるからね!