ノンダイアトニックコードを使う 後編です。
前編「ノンダイアトニックコードを使う 前編」ではドミナントの連結について学びました。
後編ではそれ以外のパターンについて色々見てみましょう。
モーダルインターチェンジ
またまた訳の分からない横文字が登場しましたが、旋法の(modal)交換(interchange)という意味です。
簡単に言うと、あるコードを同主旋法の別のコードに置換してしまうということです。
上がCメジャーのダイアトニックコード、下がCmのダイアトニックコード(ⅤはGmでも可)ですが、Cメジャーの曲中のあるコードを、同じローマ数字を持つCmのダイアトニックコードに交換することが出来るのです。
こんな感じです。
「旋法の交換」なので、マイナー(エオリアン)だけでなく他の旋法から持ってくることも出来ますが、使用例は多くありません。
強いて言うならCフリジアンからD♭を持ってくるぐらいでしょうか。
あ、あとはCロクリアンからE♭mを持ってくるとか?
う~ん…使わねぇな~…(ーωー;)
逆に、短調のときに長調の和音を持ってくることも出来ます。
しかし「音のパワー」みたいなものを考えると、やはり短調よりも長調のほうがパワーが強いんですよ。
なので、下手に長調の和音を使うと主張が強すぎて浮いてしまうので、使えるコードは限定的です。
むしろ短調のときは、先程ちらっと登場したD♭やE♭mが使いやすいですね。
ちなみに短調のときに使われる長調の和音の代表はFとCで、Fは「ドリアのⅣ」と呼ばれています。
ハ長調のⅣを借りてきたのかと思いきや、実はB♭調のⅤだったというフェイント和音。
クラシックではドッペルドミナント的な役割を果たしますが、ポピュラーでは「Cm→F→Cm→F」のような進行もよく使われます。
これによって名前の通りドリア風の雰囲気を出すことができます。
この和音についてはこちら「Ⅳ諸和音」でもチラッと触れています。
一方Cメジャーコードは、もちろん理論上はCmの代わりにいつでも置くことが出来るのですが、曲のラストに使うと効果的です。
ラストに置くCは「ピカルディーのⅠ」と呼ばれ、短調の曲のラストをドカーン! と壮大な感じで締めたいときに使われます。
(ピカルディーの3度、ピカルディー終止などと言われることもあります)
私がこの和音を知ったのはコレがきっかけでした。バッハのマタイ受難曲の冒頭合唱。
Emの重苦しく鬱屈とした曲調なのですが、最後の締めはドカーンとEメジャーのコードで終わるのです。このカタルシス的な感覚がたまりません。
最後だけ聞いても全然カタルシスにならないので、少し前から、時間に余裕がある方は出来ればフルでお聞きください。
ところで、広義では旋法・音階が変われば全てモーダルインターチェンジと言うらしいです。
つまりCメジャーがDメジャーに変わっても、それはモーダルインターチェンジと言うようなのです。
しかしそうなると全ての借用・転調はモーダルインターチェンジになってしまい、逆に意味がなくなってしまうので、今回はそこまで深入りはしません。
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dimコード
次にdimについて考えてみましょう。
dimの基本的なことはこちら「減七の和音(dimコード)」で解説しているので、詳しく知りたい方はご覧下さい。
dimは♭9thのコードからルートが外れた形です。
例えばC#dimはA7(♭9) からルートが外れた形です。
よって前編で紹介した「C→A7→Dm」というコード進行を「C→C#dim→Dm」と置き換えることができます。
これによってルートが半音進行で滑らかになります。
逆に「Dm→C#dim→C」とか「C#→C#dim→C」のような進行も有りますが、やはりdimのルートは上に行こうとするパワーが強いので、例は多くありません。
あとは「Cdim→C」のような進行もたまに見ることができます。なぜこのような進行が可能なのでしょうか。
「ただの偶成和音(下方倚和音)で、Cコードの構成音が転位・変位しているだけなんだから何に進行しようが勝手だろ」と言ってしまえば終わりなのですが、♭9thの観点からも少し考えてみましょう。
先程と同様に考えると、CdimはB7(♭9) からルートが外れた形です。
つまりCdim→Cという進行は、上三声部分だけ見ればEm(ホ短調)の「Ⅴ→Ⅰ」だし、全体で見ても「Ⅴ→Ⅵ」と同じです。よって合法というわけなのです。
(Ⅴ9からⅥって進行していいんだっけ? という突っ込みは置いといて…)
dimは「何のコードからルートが外れた形なのか」ということが分かっていれば、決して難しいコードではありません。
中心軸システム
以上でだいたい説明は終わったと思うのですが、ついでにコレについても軽く触れておきましょう。
中心軸システムとは「五度圏を十字で結んだコードは同じ機能を持つ」という理論です。
コードだけでなく調や単音に対しても同様です。バルトークが提唱した…と私は思っていたのですが、そうでもないようです。
上の円を五度圏と言いますが、これを十字で結ぶ。例えば12時・3時・6時・9時(C・A・F#・E♭)のコードは同じ機能を持ちます。
つまり全てトニックとして扱うことができるという意味です。mが付いても7thが付いても同様です。
中心軸システムについて詳しく知りたい方はこちら「中心軸システム」をご覧下さい。
ちなみにジャズのジョン・コルトレーンは「コルトレーン・チェンジ」という似たような理論を提唱しています。
中心軸システムは十字でしたが、コルトレーンは正三角形です。つまりC・E・A♭が仲間であると考えたわけですね。
さて、これでノンダイアトニックコードについて一通り解説が終わりました。
これらの理論を駆使して、周りをアッと驚かせるような曲を書いてしまいましょう。