今日のテーマはリディアン・クロマティック・コンセプトです。「リディクロ」「LCC」などと呼ばれることもあります。
ジョージ・ラッセルというアメリカ人が考えたものです。
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無慈悲なお値段…。
「コンセプト」なので、理論と言うよりは、概念と言うか原理と言うか公理と言うか、ただの「コードにスケールを当てはめる時の考え方」です。
難解であると言われていますが、それは単純に文章が抽象的だからです。原文が抽象的な上に矛盾している点もあって、しかも邦訳も下手。
おそらくジョージ・ラッセル本人から直接教わった人以外は誰も理解できていないのではないでしょうか。
スケールを考える
本題に入る前に、アヴェイラブル・ノート・スケールの考え方を復習しましょう。
例えばCm7コード上でアドリブをするとき、何のスケールが使えるでしょうか。
やり方は人それぞれですし、状況にもよりますが、とりあえずコードトーンと使用可能なテンションを書き出し、それらの音を音高順に並べてみましょう。
次に、C音から始まるスケールの中で、上のスケールが何にあたるのかを考えます。
C音から始まるスケールは他にも沢山ありますが、ともかく先程書き出した音はドリアンスケールと一致していますね。
よって、Cm7コード上で使えるスケールは「Cドリアンスケール」であることが分かります。
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何リディアン?
一方、リディアン・クロマティック・コンセプトではどう考えるでしょうか。同様にCm7コードで考えてみましょう。
コードトーンとテンションを書き出すまでは同じです。
今度は、これらの音が「何リディアン」にあたるのかを考えます。
順番に見ていくと、E♭リディアンと等しいことが分かりますね。よって、Cm7コード上で使えるスケールは「E♭リディアンスケール」であることが分かります。
(実際には巻末に一覧表が載っていて、それを見ながらスケールを探します)
このように、全てのコードを何かしらのリディアンに当てはめてしまう概念のことを「リディアン・クロマティック・コンセプト」と言うのです。
「この方法なら、リディアンスケールだけ覚えてしまえば全部弾けるので簡単じゃないか!」という、合理性を追究しすぎて逆に非合理的になってしまう「アメリカ人あるある」がプンプンしますねw
はて、しかしアヴェイラブル・ノート・スケールの考え方では、Cm7上で使えるのはCドリアンスケールでしたね。一体どちらが正しいのでしょうか。
心配いりません。CドリアンスケールとE♭リディアンスケールは、開始音が違うだけで中身は全く一緒です。(両方ミとシが♭)
つまり、ルートを固定して「何スケールか」を考えるのがアヴェイラブル・ノート・スケールで、スケールを固定して「ルートは何か」を考えるのがリディアン・クロマティック・コンセプトです。
どちらも結論は一緒です。自分に合った考え方を選びましょう。
何となく「車輪の再発明」感が否めないためか、LCCは賛否両論ガッツリ分かれています。
私は、この辺の範囲であれば別に間違ったことを言っている訳ではないので考え方そのものは否定しませんが、だからと言って自分の音楽に取り入れようとは思いませんw
(もう少し難しい範囲になると矛盾や意味不明な点がガンガン生じてくるので、その辺は賛成できませんが)
ペアレント・スケール
よし、リディアンを中心に考えるのは分かったぞ。しかし、徹頭徹尾リディアンで演奏していたらワンパターンで面白くありませんよね。
そこで、LCCでは他にも様々なスケールを用意しています。ちょっと見てみましょう。
リディアンも含めて、全部で7種類のスケールを使うことが出来ます。「補助」とは「auxiliary」の直訳です。
名前が独特なので難しそうですが、よく見ると補助オーギュメントはホールトーンと同じ。補助ディミニッシュはディミニッシュスケールと同じ。補助ディミニッシュ・ブルースはコンビネーション・オブ・ディミニッシュと同じですね。
それにしても、全てのスケールでファが#になっているのは流石です。
スケールのルートが同じであれば、リディアンの代理として他の6種類を自由に選べます。
例えば先程のCm7であれば、E♭リディアンの代理として、E♭リディアン・オーギュメント・スケールとか、E♭補助ディミニッシュ・ブルース・スケールなどを使って演奏してもいいのです。
Cm7におけるE♭リディアンを「ペアレント・スケール」と言い、それ以外の6種類のスケールは「補助スケール」と言います。
一応付け加えておきますが、スケール内の音しか使えないわけではありません。その辺は通常のアドリブと同じように考えて下さい。
難しいコードになると、リディアン以外のスケールがペアレントスケールになることもあります。
例えばA♭7(#5 , ♭9) というコードはリディアンには当てはまりません。この場合はCリディアン・オーギュメントがペアレントスケールになります。
また、複数のスケールがペアレントスケールになる場合もあります。
Am7(♭5) はE♭リディアンとCリディアン・ディミニッシュの両方に当てはめることが出来るので、どちらもペアレントスケールです。
この場合、E♭を主音とする補助スケールと、Cを主音とする補助スケール、どちらも使用することが出来ます。
(この理屈で行くとFリディアン・フラット・セブンスと、及びそれらに付随する補助スケールも使えるはずなのですが、それについては書籍内で言及されていないのでよく分かりません)
こうなってくると、補助スケールの中で、コードに対して協和度の高いスケールと低いスケールが出てきます。
例えばAm7(♭5) に対して「C補助オーギュメント」のスケールでアドリブを弾こうとすると、この場合コードとスケールの共通音はドしかありません。
このように、コードに対して協和度の低いスケール、または演奏のことを「アウトゴーイング・メロディ」と呼びます。それに対して協和度の高いスケールや演奏は「インゴーイング・メロディ」と呼ばれます。
アウトゴーイングとインゴーイングはハッキリ分けられるわけではなく、グラデーション的です。
7つのスケールを全て足し合わせると、当然ながら半音階が出来上がります。
ジョージ・ラッセルはこれに「リディアン・クロマティック・スケール」という名前を付け「全ての楽曲・演奏はリディアン・クロマティック・スケールで説明できる!」と声高に言っていますが、当たり前だろっつーの。
ホリゾンタル・スケール
今までは一つのコードに対して一つのスケールを当てはめていましたが、次はもっと大きな視点で考えてみましょう。
例えば上のようなコード進行があったとき、この部分のキーは当然Cメジャーですから、この3小節の間ではCを主音とするスケールが使えます。
この場合、LCCでは上の4つのスケールが使用できるとされています。補助ディミニッシュは先程も登場しましたね。
このように、曲のキーから導くスケールを「ホリゾンタル・スケール」と言い、それに対して先程のように一つ一つのコードから導くスケールを「バーティカル・スケール」と言います。
ホリゾンタル・スケールも、当然先程の4つしか使ってはいけないわけではありません。むしろ、けっこう柔軟に何でも使って良いみたいです。
先程の4つのスケールに該当しないような音を使った演奏は「アウトゴーイング・ホリゾンタル・メロディ」と呼ばれます。
ちなみにキーがマイナーだったらどうするのか。例えばCmだったら「Cアフロアメリカン・ブルース・スケール」か「E♭メジャースケール」を使うようです。
LCCの基本的な考え方はこんなところです。ちょっと長くなってしまったので続きは後編で。