今日のテーマは中心軸システムです。
バルトークの曲によく使われている技法なのですが、本人が「私はこのような技法を使って作曲している!」と言ったわけではなく、エルネ・レンドヴァイという理論家がバルトークの音楽を研究していて発見した法則らしいです。
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T・S・D
突然ですが、ハ長調のスリーコードであるF・C・Gは、それぞれどのような機能を持っているでしょうか。
これは簡単ですね。Fがサブドミナント、Cがトニック、Gがドミナントです。
では同じくハ長調で、Dm・Am・Emはどのような機能でしょうか。
これも先程と同じですね。Dmはサブドミナント、Amはトニック、Emは厳密に言うと二つの機能を持っているのですが、ここでは便宜上ドミナントとします。
これを5度圏で表すと上のように書くことができます。Fから順番にS→T→D→…と、規則的に並んでいますね。
ということは、5度圏の残りの部分も同様の規則で並んでいると考えられないでしょうか。
はい、実際に並べてみました。
図をよく見ると、5度圏上で十字の位置にあるコードはそれぞれ同じ機能を持っていますね。
キーがCの場合、C・A・F#・E♭(12時・3時・6時・9時)は全てトニック。
G・E・D♭・B♭(1時・4時・7時・10時)は全てドミナント。
D・B・A♭・F(2時・5時・8時・11時)は全てサブドミナントです。
この機能はmや7thが付いても変わりません。
また、コードだけでなく調や単音に対しても同様です。
つまり、Cのコードを使うべき場所では、A・F#・E♭・Am・F#m・E♭mなどが(理論上は)代理コードとして置換可能だということです。
この考え方を利用したものが、ジャズの「4トニックシステム」です。
4トニックシステムについて詳しく知りたい方はこちら「マルチトニックシステム 前編」をご覧下さい。
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代理コード
「言いたいことは分かるけど、そんな都合良く考えてしまっていいのかなぁ…」
問題ありません。冷静に一つ一つ考えていけば分かります。
まず、CとAmは仲間ですよね。これは誰でも分かります。
同様に、CmとE♭も仲間です。
また、CとCmは仲間ですから、CとE♭も仲間であることが導けます。
これをさらに発展させると、AとF#mは仲間、或いはE♭mとF#(G♭)も仲間であることから、CとF#も仲間であることが導けます。
よってC・A・F#・E♭はお互いに仲間であることが証明できます。
まぁ、こんな面倒なことを考えなくても、「裏コード」という概念を知っていれば、CとF#が仲間であることは簡単に分かりますね。
コンディミスケール
中心軸システムは、理屈としてはこれだけです。解説終わり。
ただし、これを利用することによって面白いことが分かります。
先程のC・A・F#・E♭という4つのコードの構成音を全部足すと、一つのスケールが出来上がるのです。
はい。これはコンビネーション・オブ・ディミニッシュ・スケール、通称コンディミと呼ばれるスケールですね。
面白いことに、Cm・Am・F#m・E♭mを足しても、C7・A7・F#7・E♭7を足しても同じです。
dimでもいけるけど、これは当たり前かw
つまりコンディミとは「同じ機能のコードの音を全部集めたスケール」だったのです。
この音階は「半全半全半全半全」という音程で出来ています。
これによって短3度移調(カラオケで言うと+3)すると元のスケールと同じになってしまい、全部で3パターンしか存在しないという不思議な性質があります。
メシアンは「移調の限られた旋法」の第2番としてコンディミスケールを挙げています。
分かりやすい使用例としては、ミクロコスモスの第101番など。
Diminished Fifth, Mikrokosmos, Vol. IV, No. no101, Béla Bartók
Dコンディミ(E♭dimスケール)で始まり、3種類のスケール全てを行ったり来たりします。
コンディミスケールについて詳しく知りたい方はこちら「dimスケール・コンディミスケール」をご覧下さい。
フィボナッチ数列
バルトークは黄金比やフィボナッチ数列がなぜか大好きで、それらを自身の作品の中に取り入れていたらしいです。
黄金比とは、上のような比で表される数のことです。ややこしい数ですが、これは計算すると約1.618です。
つまりだいたい「1:1.6」という比で作られたものを人間は美しいと感じるということです。
ミロのヴィーナスやモナリザなど、古今東西の名作はこの比で出来ているらしいです。
また、フィボナッチ数列は上のように表される数列で、一つ前の数と二つ前の数を足すと、次の数が出来上がるという面白い仕組みになっています。
例えば89の次の項は、55+89で144です。
実は、フィボナッチ数列の連続する2項の比を取ると、それは黄金比になるのです。
数字が小さいと駄目ですが、大きくなるほど黄金比(約1.618)に近づきます。不思議ですね。
一方、「1:ルート2」もしくは「1:1+ルート2」で表される比もあり、これは黄金比に対抗して白銀比と呼ばれます。
法隆寺やスカイツリー、或いはA判B判といった紙の縦横比は白銀比で出来ており、日本人は黄金比よりも白銀比を美しいと感じるらしいです。
話を戻しましょう。
バルトークは、この黄金比やらフィボナッチ数列やらを使って作曲をしました。
ざっくり説明すると、AメロとBメロの長さの比が1:1.6になっているといった具合です。
また、フィボナッチ数列の項を利用した和音も作っています。
半音を1としたとき、上の和音は各音の音程がフィボナッチ数列の項に登場する数字で出来ています。一番外側の音程だけ当てはまらないのが残念ですが…。
上の和音にシ♭を加えるとC7(#9) のコードになりますね。この和音もバルトークの作品にちょいちょい登場するらしいです。
シ♭も、ミを除く全ての音程でフィボナッチを形成します。
スケールにも応用してみましょう。
例えばフィボナッチ数列に登場する数字である1と2を使って「1→2→1→2→…」という音程でスケールを作ると、先程のコンディミスケールが出来上がります。
バルトークは同様に、「1→3→1→3→…」とか「1→5→1→5→…」というスケールも使っているらしいです。
「1→5→1→5→…」は音数が少ないので使い勝手が悪そうですね。しかもコンディミスケールに包含されてしまうので、あまり意味がなさそうです。
一方「1→3→1→3→…」のスケールは、3トニックシステムやコルトレーン・チェンジと関係してきます。
これも詳しく知りたい方は先程のリンク「マルチトニックシステム 前編」をご覧下さい。
さて、今回は中心軸システムについて解説いたしました。
ちなみに先程、日本人は黄金比よりも白銀比を美しいと感じると言いましたが、日本の建物の中でも、金閣寺はその名の通り黄金比が使われているそうです。
金閣寺と言えば三島由紀夫ですが、三島は超保守派なのに美の趣味は日本人っぽくないところがあるので、白銀比よりも黄金比に惹かれてしまったのかもしれません。