音楽理論 ざっくり解説

音楽理論をざっくり解説します。最低限のポイントだけ知りたい方へ

中全音律

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続いては中全音律について見てみましょう。これは別名「ミーントーン」とも言われます。「mean」は「意味」ではなく「平均・真ん中」という意味ですね。

時代は、これも諸説あってよく分からないのですが、純正律と同時期か、直後ぐらい(16世紀前半頃)には既に使われていたようです。

 

大全音・小全音

純正律ではE音を少し下げたために、DE間がCD間よりも狭くなり、音の階段がグチャグチャになってしまいました。それを是正するために、今度は5度音程を少し狭く取ってみましょう。

 

「いやいや…CDE間の是正なのに、何で5度が関係あんねん…」

 

まぁまぁ、落ち着いて最後まで聞いてください。

中全音律の調律法は、基本はピタゴラス音律と同じです。まずはCとGの5度音程を取りますが、このとき、従来の5度よりも5.375セント狭く取ります。続いてGとDの5度も5.375セント狭く取ります。DA間とAE間も同様です。

すると、CE間は5.375×4で、ピタゴラス音律の3度よりも21.5セント低くなります。

 

21.5セントという数字、何かに似ていますね。

そう、シントニックコンマですね! 復習になりますが、シントニックコンマとはピタゴラス音律の3度と純正律の3度の差のことです。

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つまり、この方法ならば純正律の3度はそのままで、大全音・小全音を是正できるのです。大全音・小全音を平均化したので「中全音律」と呼ばれます。

ピタゴラス音律に比べれば5度の協和度はダウンしますが、ほんの少し低くしただけですから、気になるほどではありません。これ考えた人、頭良すぎでしょw

 

よし、今度こそ一件落着だ!

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千代の富士、再び

いえいえ、世の中そんなに上手くいきません。中全音律は、基本はピタゴラス音律です。と言うことは、両端の音には「アレ」が再び現れます。

そう、ウルフです。

 

A♭→E♭→B♭→F→C→G→D→A→E→B→F#→C#→G#

 

ピタゴラス音律では、このA♭とG#の間には約23.5セントの差がありましたね。しかし今回はもっと深刻です。一つ一つの5度を少しずつ狭く取ってしまったために、A♭G#間にシワ寄せが来てしまい、ピタゴラス音律以上に大きく開いてしまったのです。その差はなんと約41セント! 半音が100セントなので、ほとんど半音の半分です。

 

G#とE♭の5度も、ピタゴラス音律の5度より約35.7セント離れており、とても実際の演奏に使えるものではありません。

(上の音源で実際に出ている音はドとソです)

相変わらずのホンキートンク感w 私はけっこう好きですw

 

このウルフのため、中全音律は#3つまで、♭2つまでの曲は美しく響くが、それ以上は駄目と言われています。純正律はハ長調オンリーだったので、それに比べれば進歩しましたが、できればもう一声欲しいところですね。

ちなみにモーツァルトの曲は、ほぼ全てが#♭共に3つまでで書かれています。それは中全音律で調律したピアノで弾いていたからです。

 

ところで、ピアノを2台用意するという発想はなかったのでしょうか?

一台はCを中心に調律して、もう一台はF#を中心に調律すれば、全ての調をカバー出来るので自由自在に転調・移調できるはずです。古典派前半ぐらいまでは、音楽は貴族のためのものだったわけですから、ピアノ(クラヴィーア)を2台用意することくらい朝飯前だと思うのですが…。

ちなみにショパンはコンサートのとき、調律の異なるピアノを何台かステージに置いて演奏していたらしいです。

 

異名同音?

ここで、先程の5度の関係をもう一度見てみましょう。

 

A♭→E♭→B♭→F→C→G→D→A→E→B→F#→C#→G#

 

ピタゴラス音律では、A♭から5度上に次々進んでいくと12個目に最初の音と非常によく似た音が登場します。しかしこれは最初の音よりも約23.5セント高い。なぜなら厳密に言うとA♭ではなくG#だからです。

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中全音律では、これらの5度を5.375セントずつ狭く取ったのでしたね。つまり、点と点の間隔が少しずつ狭くなるのです。

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なんと、届きません!

A♭からG#に到達するまでに5.375セント×12回分低くなった結果、最終的に元の音よりも低くなってしまいました。

つまり、ピタゴラス音律では♭よりも#の方が高かったのですが、中全音律においては#よりも♭のほうが高いのです。不思議ですね。

 

3分の1の純正な調律

今回は、5.375セントずつ5度を狭くして調律しました。5.375セントはシントニックコンマの4分の1なので、この方法は正確には「4分の1中全音律」と呼ばれます。

他にも3分の1とか5分の1とか、様々なバージョンがあります。これらは全て同じ目的のために発案されました。つまり「3度や5度を少しずつ犠牲にしてウルフを緩和しよう」ということです。

まさに一長一短ですね。

 

その後、様々な調律法が考案され、群雄割拠のような状態となりますが、基本的には中全音律のやり方と変わりません。ピタゴラス音律・中全音律が頭に入っていれば全て理解できます。

 

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