音楽理論 ざっくり解説

音楽理論をざっくり解説します。最低限のポイントだけ知りたい方へ

アイルランド音楽

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今回解説するのはアイルランド音楽です。

一般にケルト音楽と言われてしまうジャンルですが、本来ケルト音楽というのはスコットランドとか、フランスやスペインの北のほうの音楽まで含みます。

 よって今回解説するのは、ケルト音楽ではなくアイルランド音楽です。

 

アイルランドの伝統的な音楽は、歌と器楽曲ではかなり印象が異なります。

歌は、本来は無伴奏で一人で歌い、また落ち着いた曲調のものが多く存在します。

一方、器楽曲はほとんどがダンスのための曲で、我々がゲームやアニメのBGMとしてイメージするのは主にこちらです。

(今から解説するのもこっち)

またアイルランドとは、イギリスの西側にある国のことです。図の赤丸のあたりですね。

島の北側は「北アイルランド」と言って、これはイギリス(連合王国)の一部です。

サッカーに詳しい方は「アイルランド代表」と「北アイルランド代表」が別のチームであることをよくご存知かと思います。

 

リズム

アイルランド風の器楽曲を作るときは、曲のスタイル(リズム)と装飾音に注意すると非常にそれっぽくなります。

まずは曲のスタイルについて見てみましょう。

 

アイルランド音楽には、ジグ・リール・ホーンパイプ・ハイランド・フリング・マーチ・ポルカ・ワルツなど多数のスタイルが存在しますが、この中で特に「それっぽい」のはジグ・リール・ホーンパイプかと思うので、今回はこの3つを紹介します。

 

まずジグですが、大きく分けるとシングルジグ・ダブルジグ・スリップジグの3つが存在します。

この3つは拍子が異なります。

シングルジグとダブルジグは8分の6拍子、スリップジグは8分の9拍子です。

スリップジグは3拍子系なので判別しやすいのですが、シングルとダブルの違いはちょっと難しい。


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曖昧な言い方で申し訳ないのですが、ダブルは「タタタ タタタ」という音型・リズムなのに対し、シングルは「タッタ タッタ」と跳ねるような感じになっています。

(譜例は私が適当に作ったものです。以下同様)

また、単に「ジグ」と言った場合はダブルを指すようです。


続いてリールとホーンパイプですが、これらは4分の4拍子です。

リールはイーブンで演奏するのに対し、ホーンパイプは跳ねるリズムで、且つリールよりもテンポが遅めの曲が多い。

(…と言っても、アイルランド音楽は基本的に跳ねて演奏するものなので、リールも若干跳ねますが)


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アイルランドの器楽曲はダンスのための音楽なので、本当はダンスにも着目したほうが各ジャンルの違いが分かりやすいのではないかと思うのですが、残念ながら私にはダンスの知識は全く有りませんw

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曲の構成

リズムについて学んだところで、ついでに曲の構成についても勉強しましょう。

アイルランド音楽は大抵2つの部分から成ります。

 

まずは8小節のAメロから始まります。

このAメロを繰り返した後でBメロに移りますが、Bメロは大抵Aメロよりも高い音域が使われます。

 

Bメロも再度繰り返します。

つまりAメロ16小節・Bメロ16小節。

これで1コーラスです。

ちなみに正式には、Aメロのことを「チューン」Bメロのことを「ターン」と言うそうです。

 

1コーラスが終わったら、また最初から演奏者の気が済むまで何コーラスもグルグルと回します。

飽きたら別の曲に行くこともありますが、その場合ジグならジグ、リールならリールと、大抵は同ジャンルで進行します。

 

今言ったように基本はAB形式ですが、たまにABCとかABCD形式の曲もあります。

Aメロ16小節・Bメロ16小節ではなく、8小節・8小節もたまにある。

どんなジャンルでもそうですが、ここで説明していることは全てのアイルランド音楽に当てはまるわけではないのでご注意ください。

 

また、他の民族音楽同様、楽譜は最近まで使われず、直接耳で聞いて曲を覚えていました。

そのため…かどうかは分かりませんが、同じタイトルの曲なのに全く印象が違ったり、或いは違うタイトルなのに同じメロディだったり、ということがアイルランド音楽にはよくあるそうです。

 

楽器

アイルランド音楽でよく用いられる楽器は、ハープ、フィドル(バイオリン)、イリアン・パイプス(バグパイプの仲間)、コンサーティーナ(バンドネオンの親分)、ホイッスル、フルート、ギターなど。

 

この中で最も歴史が古いのはハープで、古いものでは11世紀頃の記録が残っているそうです。

しかし、現代アイルランド音楽で特徴的なのは装飾音です。

ハープは他の楽器に比べて装飾音が分かりにくいため、他の楽器とはかなり印象が異なります。

 

バイオリンはビブラートを使わず、音の強弱もほとんど付けない。

さらに第一ポジションしか使わないという特徴があります。

たまにトンデモナイ構えで弾く人がいるのはこのためです。

 

バグパイプで注意しなければいけないのは、音域が物凄く狭いこと。

9度か10度くらいしか出ません。

しかしアイルランド音楽で使うイリアン・パイプスは、2オクターブ程出せるようです。

 

バンジョーやギターなどの和音楽器が使われることもありますが、これらの楽器が一般的になったのは20世紀に入ってからです。

元々アイルランド音楽には和声の概念はありません。

アイルランド音楽は、複数人で演奏したとしても全てユニゾンです。

たまに誰かが皆とは違うメロディを弾いて偶然ハモったりすることはありますが、別にコード理論に則っているわけではありません。

最近はポップスの影響でコードを付けた曲も存在しますが、それでも難しいコード進行は使われません。

芸大和声式で言うと、Ⅰ・Ⅱ・Ⅳ・Ⅴ・Ⅵ辺りで充分。

 

装飾音

アイルランド音楽と言えば装飾音です。

実は、装飾音はアイルランド音楽の本質ではないようなのですが、少なくとも現代では最も特徴的な部分になってしまっていることは事実です。

アイルランド音楽では、主に「カット」「ロール」「クラン」「トリプレット」という4つの装飾音が使われますが、演奏者はこれを即興で入れていきます。

なお、時代や地域によって奏法や使用する装飾音に違いがあるらしいのですが、残念ながら私はそこまでは分かりません。

 

では一つずつ順番に見ていきましょう。

まずはカットです。

これはその名の通り、同じ高さの音が連続するときに、その間に装飾音を入れて2つの音をカットする技法のことです。

なぜこのような装飾音が存在するのかと言うと、どうやらバグパイプが由来のようです。

バグパイプは、その構造上音を止めることが出来ない…わけではないのですが、ともかく不得手とする楽器です。

 

バグパイプで先程の譜例を吹くとこうなってしまいます。

左は1つの音にしか聞こえませんね。

よって、同じ高さの音が連続するときには装飾音を入れて音の境目を表現するのです。

アイルランドでは、この習慣を他の楽器でも真似するようになったということらしい。

 

バイオリンの場合、指板部分を余っている指で適当にタップします。

つまり、上譜例の表記はあくまで便宜上のものであり、実際の演奏では何の音でもいいし、平均律とか純正律上の音である必要すらないのです。

 

管楽器(ホイッスルやイリアン・パイプス)の場合も、適当にどれかの指を離してカット音を出しますが、離す指はだいたい決まっているようです。

ソ以下の音に対するカット音はラ。(上譜例1番)

ラのときのカット音はシもしくはド(2番)、シのときはド。(3番)

オクターブ上も同じ。

 

目的はあくまで「音を切り離すこと」なので、カット音をハッキリ発音させる必要はありません。

管楽器で指穴を一瞬だけ開けたり塞いだりするとパーカッションのような音が出ますが、そんな感じで構わないのです。


今説明したような連続した2音ではなく、単音の前にカットを入れることもあります。

まぁこれを「カット」と呼ぶのは定義的にどうなのか…ということで、単純に「グレース・ノート」と呼ぶ人もいます。

上譜例のような装飾音を「シングルカット」と言います。

主に使用する音や出し方については、先程と同じです。

メインの音が一つしかないので、切り離す意味はなく、バロック音楽と同様に強調することが目的となります。

 

一方、シングルカットのカット音の前に、さらにメインの音を入れる。

つまり「メインの音→カット音→メインの音」という形の装飾を「ダブルカット」と言います。(下譜例)

曲のテンポが早い場合、これは最初に紹介した普通のカットと同じように聞こえます。

 

ダブルカットのカット音はメインの音に対して高音でしたが、低音バージョンもあります。

これを「パット」と言います。(下譜例)

今まで紹介したカットは順次進行と跳躍進行の両方がありましたが、パットは順次進行のみです。

管楽器の場合、指穴を指で叩くような感じで出すので、今までのカットよりもさらにパーカッション感が強くなります。

 

ちょっとカットの説明だけでかなり長くなってしまいましたが、この考え方が理解できていると他の装飾音もスムーズに理解できます。

 

ロール

次はロールです。

カットは上からのみでしたが、下からも攻めるパターンです。

シングルカットとパットを組み合わせた形だとも考えられますね。

カットのときの法則と同様に、上の音(譜例だとラ)はバイオリンの場合は何でもよく、管楽器の場合は指がだいたい決められています。

下の音(譜例だとファ#)は順次進行です。

 

上譜例のようなロールを「ショート・ロール」と言います。

一方、下譜例のようなロールは「ロング・ロール」と呼ばれます。

ショート・ロールは元の音符が2個なのでリールでよく使われ、ロング・ロールは元の音符が3個なのでジグでよく使われます。

 

クラン

これは主にフルートやホイッスルで使われます。

同じ音が多数連続するときにカットをその都度入れていく技法です。

装飾音の音高は決まっており、順番に隣の指を動かしていくため、装飾音は必然的に順次進行となります。

ただし指穴の関係で、メインの音がレ、或いはミ(ほぼ全ての音孔を塞ぐ音)でないと使えません。

 

全ての指穴を塞いでしまうとロールやパットが出来ないので、代わりにクランを使うことになるわけです。

 

トリプレット

これは今までのカット系の装飾音とは異なります。

その名の通り「三連符」という意味ですが、3度音程の間に音符を入れて、進行を滑らかにする技です。

カット系の装飾音はバグパイプが由来でしたが、トリプレットはハープ由来であると言われています。

これも、便宜上三連符で書いてはいますが、きっちり三連符のリズムにしなければいけないわけではありません。

 

装飾音、或いはそれに準ずるテクニックは他にも色々あるようですが、以上の4つが理解できていればほとんど対処できます。

 

旋法

ついでに旋法について少し説明して終わりにします。

アイルランド音楽の器楽曲は、ほとんどが#1個、もしくは2個で演奏されます。

 

おそらく最も数が多いのは長調ですが、その#数に応じた短調・ドリア・ミクソリディアが使われることもあります

例えば#1個だったら、Gメジャーだけでなく、EmやAドリアやDミクソリディアも使われるということです。

転調はありません。

 

今回はアイルランド音楽について解説いたしました。

それにしても、お隣のイギリスは料理が美味しくないことで有名ですが、アイルランドはどうなんでしょうか。