今回解説する曲は、ワンピースの主題歌「ウィーアー!」です。
私の世代はワンピースの歌と言えば間違いなくコレなのですが、若い方はどうなのでしょうか。
でもちょいちょいカバーされて再度オープニングになったりしているので、知らない人はいないと思います。
アニメ版だとセリフやら効果音やらが入っていて音が非常に聞きづらいw
しかし名曲ですね。作ったのは田中公平先生です。
「これぞアニソン!」という、燃えるような曲を書かれる方です。勿論、燃え系以外にも名曲が沢山ありますよ。
では順番に解説していきましょう。
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海賊と言えば…
まず特徴的なのは、16秒あたりの「ジャーン ジャーン ジャーン」という部分ですね。
文字でどうやって表現すればいいか分かりませんが、楽譜で言うとこの部分です。
それまではセリフのための尺調整みたいな部分なので、あまり意味はありません。
譜例からが「本編スタート!」という感じです。
田中先生はこのように分数コードを並べて「ジャーン ジャーン ジャーン」とファンファーレ風(?)に鳴らすのが好きなようです。
サクラ大戦の「檄!帝国華撃団」の冒頭にも同じような部分があります。
G/C = CM9 , E♭/F = F9(11) のように、分数でない形に変換して見ていくと、9thの和音と11thの和音を交互に使っていますね。
また、前半3つと後半3つの分母がそれぞれ4度進行をしています。
さらに、各コードの3度の音が主旋律を担っています。
ただ難しいコードを並べただけのように見えて、ちゃんと法則が隠れているのです。
一方ウィーアーは……あれ?
11thの和音をただ並べただけですね。(最後だけ9thの和音)
主旋律も分子の音をただ並べただけだし、う~む…「(´へ`;)
ま、カッコイイから良しとしましょうw
もしかしたら我々凡人には理解できない法則が隠れているかもしれませんしw
さて、続いては下の譜例のような音型が登場しますね。
(本当は全てのコードが「on E♭」の形になっているのですが、見やすくするために分子だけを記載しています)
この部分は後で触れるので一旦置いといて、それに続くサビを聞いてみましょう。
サビではラッパの音が目立ちますね。
歌とラッパが交互に演奏されるような形です。
このような形式の曲を聞くと、私は次のような音楽を連想してしまいます。
カリブ音楽です。(動画はキューバ音楽)
ワンピースと言えば海賊、海賊と言えばカリブ。
きっと田中先生は、そう思ってカリブ音楽の要素を取り入れたに違いない!
…いや、私の勝手な推測なんですけどねw
ところで今のカリブ音楽ですが、歌とラッパの音量が大きいので分かりづらいかもしれませんが、後ろでピアノが下のようなフレーズを弾いているのが聞こえますか?
先程イントロで登場した「E♭→D♭→C♭→D♭」のコード進行を、このピアノのような音型でアレンジしてみるとどうなるでしょうか。
(実際に弾いている音は、どちらも譜例よりオクターブ上)
なんと、見事にラテン系のノリになりますね!
きっと田中先生は、この曲の随所にこのようなラテン(カリブ)の要素を散りばめているに違いない!
…いや、私の勝手な推測なんですけどねw
詞先で作った曲
ところで、この曲は詞先で作られたということをご存知ですか?
詞先というのは「歌詞が先に出来上がって、それに曲を付ける」という制作方法のことです。
作曲をカジったことのある人なら詞先で作る難しさをよくご存知だと思います。
歌詞の文字数が決まっているので、メロディが好きなように書けず、かなりの制約を受けます。
その反面、世界観が既に決定されているので、曲の構成が細かく練りやすいというメリットがあります。
慣れてくると意外と詞先のほうが名曲ができたりするものです。
ちなみに尾田栄一郎氏がコミックス50巻にて、
「『ビンクスの酒』はですね、後から曲つけるのに歌詞が邪魔して良い曲にならなかったらイヤなんで、先に曲作ってくださいと、田中公平さんに作って貰った」
ということを書いていますが、田中先生は詞先のほうが慣れているはずなので、気を遣ったつもりが実は失礼なことをしていたことになりますw
Bメロ・サビ
さて、話を戻しましょう。
実はこの曲、Bメロで歌の最高音が登場するのです。
「バイオリズム乗っかって~」の「て~」の部分がラ♭で最高音です。
これ以降、最高音タイ記録はいくつか存在するのですが、これを超える音は全くありません。
基本的に、音楽というものは高音になればなるほど盛り上がります。
ここで最高音が来てしまうということは、メロディの高低の観点から言えばサビはそれ程盛り上がらなくなってしまうはずなのですが、全くそんなことはありません。
ではそのサビを見てみましょう。
サビで注目すべきは、最後の部分です。
何度も言うように、この曲は詞先で書かれています。
私は、実は最初の段階ではこのような歌詞だったのではないかと推測します。
ポケットのコイン、それと
You wanna be my Friend?
We are on the cruise!
う~ん、我々が知っている歌詞と比べて何か足りないですね。
私は、この足りない部分は田中先生が作曲をする段階で付け足したのではないかと考えています。
そう思う理由を今から解説したいと思います。
詞先で曲を書く場合、歌詞を勝手に変えるのは勿論ご法度ですが、なぜか歌詞を繰り返すのはOKなのです。
おそらく田中先生は上記の歌詞では上手くメロディを付けられなかったのではないでしょうか。
そこで「We are」という言葉を繰り返し、さらにダメ押しで最後にもう一発「We are」を付け足しました。
それによって、田中先生の頭に浮かんだメロディと歌詞の文字数とがピッタリ合ったのです。
赤い音符に注目して下さい。
「We are , We are」と、同じ言葉を繰り返しながら音が上昇していきます。
先程言ったように、音楽は基本的に音が高くなるほど盛り上がります。
歌詞が同じなのに音だけが上昇していくことで、より盛り上がりを感じやすくなっています。
「We are」つまり、「俺たちは~ 俺たちは~」と歌いながらメロディが上昇していくんですよ。
テンション上がりますよね。これぞアニソン! って感じです。
さらに「Cruise」でもう一個ダメ押しで上がっていますね。
こうやって締めに向かって「ミ→ファ→ソ」と音を上げていくことで曲を盛り上げているのです。
さて、「Cruise」から最後の「ウィーアー!」までのコード進行を見てみましょう。
「C♭→D♭→E♭」となっています。
歌はほとんど休みですが、コードのルート音が一音ずつ上昇していくことで、先程同様曲の盛り上がりを上手く演出しています。
この「曲の終わりに向かって一音ずつ上昇していくコード進行」は、田中先生の作品にけっこう登場します。
例えば「勇者王誕生!」の「ガッガッガッガッ ガオガイガー」の部分もそうですし、「ハッスル」の「地球のお腹をくすぐるゾーローリー」もそうですね。
どうやら田中先生はこのコード進行がお気に入りのようですw
しかし、泣く子も黙る炎の作曲家・田中公平の代名詞のような手法です。
これを真似すれば我々も田中先生のような熱い曲が書けるかもしれませんね。
さて、今回はアニソン史に残る名曲、ワンピースの主題歌「ウィーアー!」について解説いたしました。
しっかり研究して自分の作品にも活かしたいですね。
音楽王に、俺はなるっ!!