三味線 後編です。
前編(三味線 前編)では津軽三味線について勉強しました。後編では他のジャンル(本当はこちらが正統なのですが…)について見てみましょう。
唄と語り
三味線の2大ジャンルと言えば、唄と語りです。
唄は、長唄・地唄・端唄・小唄など。歌詞の内容としては、ラブソングだったり、風景を詠んだり、祝いの歌だったり。まぁ現代の我々がイメージする「歌」と似たようなものですね。
一方語りは、義太夫節・一中節・河東節・常磐津節・清元節など。こちらは語りなので「いづれの御時にか、女御、更衣あまた候ひ給ひける中に…」のようなストーリー風の歌詞になっています。
字を見れば分かりますが、基本的には「ナントカ唄」という名前のものが唄。「ナントカ節」という名前のものが語りです。(そうでないものも一部ありますが)
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唄
ではまずは唄について見てみましょう。
動画は弾き語りスタイルでまさにギターのようですが、三味線と歌を別の人が演奏したり、三味線が2人だったり、筝が加わったり、色々な編成があります。
使われる音階は、津軽三味線のときとはちょっと違います。
陰音階・陰旋法・都節音階などと呼ばれる音階ですね。適当に上下するだけでそれっぽくなります。(便宜上Cを主音として書きましたが、動画の曲のキーはGです)
本によっては「上行と下行で形が違う」と書いてあるものもありますが、日本の俗曲はそれほど理論ガチガチではないので気にする必要はありません。むしろ曲によって千差万別すぎて困るw
よって、これ以外の音を使ってはいけない! などと言う決まりも勿論ありません。先程の動画でもちょいちょいスケール外の音が使われていますし、全体を通して主音の2度下の音がよく使われています。
この歌と三味線の関係ですが、基本はユニゾンです。例えば動画の歌の冒頭部分は次のようになっています。(細かいコブシは省略しています)
リズムは違いますが、音は一緒ですね。基本的にはこんな感じで進行していくのですが、たまに音やリズムを変化させます。(西洋音楽で言うところのヘテロフォニーです)
よくある変化のパターンとしては、動画のように三味線が歌に先行する形(譜例1)、それとは逆に三味線が後追いになる形(譜例2)、歌の旋律を簡略化する形(譜例3)、歌がロングトーンで伸ばしている最中に好き勝手弾く形(譜例4)など。
あとは全然関係のない音を入れるパターンも存在します。(譜例5)
ずーっとユニゾンで演奏するとワンパターンでカッコ悪いので適度に変化させる。この「適度に」というのが難しいのです。野球のストライクとボールの配分みたいなものでしょうか。仏教用語で「不即不離」という言葉があるのですが、三味線ではこの不即不離の精神が重要らしいです。
人数が増えてもそれは変わりません。例えば三味線が2人になった場合、三味線×2とボーカルの3人で「不即不離」に則って演奏するだけです。
そういうわけで、西洋音楽的な和音の概念はありません。
2人の三味線奏者が違う音を弾くこともありますが、それは不即不離の結果生じたものであって、別にコードを作りたいわけではありません。
動き方のパターンとしては、やはり先程の譜例1~5のようなものが多いのですが、それ以外の特徴的なパターンとして「主音・属音上でもう一人が動き回る」というものがあります(下譜例)。また、オクターブユニゾンするだけでもなかなか味が出ますよ。
なので、ドミソとかソシレとか、そういう我々が一般的にイメージする「和音」は存在しません。まして「コード進行」など存在しません。
…と言うか、合わない。
三味線に限らず、和楽器で西洋音楽の和音を弾くと和楽器の味が完全に失われます(上譜例1)。こういう和楽器の使い方をされると、私はカリフォルニアロールとかニンジャを見ているような感覚になります。つまり、海外から見た間違った日本。外国人に「これが日本の音楽かー」なんて言われたら私はひっくり返ってしまいます。
どうしても和音を付けたい場合は、譜例2のように不協和音(バルトーク風?)にすると多少マシになります。
転調はよく行われます。2度上の調、属調、下属調など、なかなか多彩に変化します。
あまりに遠い調に進行する際は、曲の途中でチューニングを変えてしまうという荒技まで繰り出します。
数小節転調した後に、何事も無かったかのように元の調に戻ってくることも多々あります。転調と言うには短く、借用と言うには長い絶妙なタイミングで戻ってきます。先程の動画では間奏部分(3分33秒あたりから)で転調していますね。
間奏冒頭で数小節だけDの旋法に変わり、その後またGの旋法に戻ってきます。(音がなかなかファジーなので、何通りもの解釈が可能ですが)
語り
続いて語りです。
日本の音楽で「語り」と言えば琵琶法師ですよね。三味線の語り物と琵琶の語り物は親戚関係です。なぜなら、三味線が日本に伝来したとき最初に弾いたのは琵琶法師の人達だったのです。(だから三線は指かピックで弾くが、三味線は撥で弾く)
語りと言っても、ほとんどは先程紹介した唄物とそれほど変わりません。もちろん経験者の方は判別できるようなのですが、私のようなド素人には全く違いが分かりません。
ただし、義太夫節は完全に「喋り」。常磐津節も喋りの部分があるので、他のナントカ唄やナントカ節との違いが分かりやすいです。
と言うわけで、義太夫節について少しだけ説明して終わりにしたいと思います。
義太夫節は人形浄瑠璃の伴奏に用いられるので、曲を演奏する感じではなく、演者の心理や風景(山・海・波・雪・人が走ってくるなど)、あるいはBGM(町・城など)を奏でます。
様々な状況を音で表現するため、陰旋法だけでなくメジャーのペンタトニックスケール(ドレミソラ)なんかも使われます。特殊奏法も非常に多く使われます。太棹という少し大きな三味線を使っているので、そもそも音に迫力があります。
人形浄瑠璃や歌舞伎にはソナエ・三重・オクリなど、定番フレーズがいくつか存在します。
これらは一体何なのかと言うと、例えば物語の冒頭ではコレを弾く、場面が変わったらコレを弾く、と言った具合に、決まった状況で決まったフレーズを弾くらしいです。
歌舞伎通の人は、これらのフレーズを聞いただけでどんな場面なのか分かるのかもしれませんね。
さて、三味線を使った音楽について解説して参りましたがいかがでしたでしょうか。日本人である以上、こういった音楽も多少は知っておかなければいけませんね。
ところで私はカリフォルニアロールを食べたことがないのですが、あれって美味しいのでしょうか。