音楽理論 ざっくり解説

音楽理論をざっくり解説します。最低限のポイントだけ知りたい方へ

ブルース

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今日のテーマはブルースです。

現代のロックやポップス、或いはジャズなどを語る上で欠かせない存在ですから、しっかり勉強しておきましょう。

 

特徴

ブルースと言えば、最大の特徴は3度と7度、及び5度の音が半音下がることです。

これらの音をブルーノートと言います。

Cブルースの場合は上記の3音です。

 

普通のミと、半音下げたミを聞き比べてみましょう。

おぉ、フラットが付くと格好良くなりますね!

Cコードにはミ(ナチュラル)の音が含まれているので、そのコード上でミ♭を弾くと本来は響きが濁るはずなのですが、なぜかそれが格好良く聞こえてしまうのがブルースの面白いところです。

ちなみに上音源では平均律上の音を出していますが、ピッタリ半音ではなく、本来の♭よりもちょっと高めに取ると味が出ます。


また形式も少し変わっていて、次のようなテンプレート進行をとります。

 

キーがCの場合は次のようになります。

1コーラスが12小節であること、及び全てのコードが7thの形になっているのが特徴的ですね。

これを「ブルース進行」とか「ブルース形式」などと呼ぶこともあります。

現代でも、軽くセッションをするときに「じゃ、とりあえずGのブルース進行で回そう!」なんて言われたりしますから覚えておきましょう。

ただし実際には、1行目が「Ⅰ→Ⅳ→Ⅰ→Ⅰ」になったり、3行目が「Ⅴ→Ⅴ→Ⅰ→Ⅰ」だったり、最後の小節が「Dm→G7」になったり、時代や人によって色々変わります。

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ブルーノート

今紹介した特徴(ブルーノートと3つの7thコード)をスケール上に無理やり表すと次のようになります。

これを「ブルーノート・スケール」と言いますが、どうやら和製英語で、構成音・名前共に海外では通じないようです。

また、スケールの構成音も、ナチュラル7度を含めなかったり、♭5thを含めなかったり、人によってバラバラで統一されていません。

この理由については後述します。

 

一般にブルースを説明する際は、次の2つのスケールを用いることが多いようです。

1番のスケールを「メジャー・ブルーススケール」、2番を「マイナー・ブルーススケール」と言います。

名前に「メジャー」「マイナー」と付いていますが、これは楽曲のキーとは関係ありません。

例えば先程のCのブルース進行では、メジャーとマイナー、どちらのブルーススケールでも使えます。

メジャー・ペンタトニックスケールから派生したからメジャー・ブルーススケール、マイナー・ペンタトニックスケールから派生したからマイナー・ブルーススケールと呼んでいるだけです。

(1番からミ♭を除くとメジャーペンタと同じ。2番からソ♭を除くとマイナーペンタと同じ)

 

ちなみにこれらのスケールには面白い特徴があって、メジャー・ブルーススケールは短3度下のマイナー・ブルーススケールと構成音が同じなのです。

具体的に言うと、Cメジャー・ブルーススケールはAマイナー・ブルーススケールと構成音が同じだということです。

つまり、Cのブルース進行ではCメジャー・ブルーススケールとE♭メジャー・ブルーススケールが使える。

或いはAマイナー・ブルーススケールとCマイナー・ブルーススケールが使える、とも考えることが出来ます。

(余計分かりにくいですが…w)

 

また、単に「ブルーススケール」と言った場合はマイナー・ブルーススケールを指すことが多いようです。


改めて、ブルーノート・スケールの構成音が人によってバラバラである理由について説明します。

スケールをもう一度見てみましょう。

確かにブルースではこれらの音が使われるのですが、だからと言って、次のようなメロディではブルースにはなりません。

 

音というものは、半音上がると上行したがり、半音下がると下行したがる性質を持ちます。

ブルースの場合、これらの音(ミ♭・ソ♭・シ♭)は本来の固有音ではなく、あくまでメジャースケールの3度・5度・7度が臨時で半音下がった形として扱うので、基本的には下行の性質を持ちます。

つまり、♭3rdと♭5thは主音に、♭7thは属音にそれぞれ引っ張られます。

この性質を利用して旋律を作るとブルースっぽく聞こえます。

 

もちろん例外もあります。(下譜例)


短音階は、主音に進行するときに7度や6度の音が半音上がることがあります。

だからと言って、マイナースケールの構成音を上譜例のように表記するのはあまり適切ではありません。

あくまで基本形は自然短音階ですが、その第6音と第7音が進行先によって臨時で半音上がったり上がらなかったりするだけなのです。

ブルースもこれと同じで、基本形はメジャースケールなのですが、その第3音などが進行先によって臨時で半音下がるだけです。

臨時で変化する音が存在すると「どこまでをスケールの構成音として考えるか」という問題が生じます。

 

短音階の場合、自然・和声・旋律の3種類に分けることで上手く理論化できたから良かったのですが、ブルースの場合はそれが困難です。

何でもかんでも構成音に含めてしまうとブルーノート・スケールのように煩雑になってしまい、音の重力関係も分かりにくくなります。

かと言って音を間引きすぎると、メジャーマイナーの両ブルーススケールのようにスッカスカになってしまう。

自然・和声・旋律のようにいくつかのスケールに分けようにも、変化のパターンが多すぎる。

丁度いい塩梅がなかなか見つからないため、ブルースのスケールは人によって構成音がバラバラなのです。

つまり、ブルースではスケールを丸暗記することはあまり意味がありません。

暗記ではなく、「下行に勢いをつけるために3度と7度(たまに5度)が半音下がる」という理屈を理解しましょう。

 

歴史

では最後にブルースの歴史を軽く勉強して終わりにしましょう。

ブルースの起源は、アメリカの黒人奴隷が作業中に歌ったワーク・ソングやフィールド・ハラーであるとされています。

皆で息を合わせるため、或いは辛い作業から気を紛らわせるための歌を「ワーク・ソング」と言います。

(フィールド・ハラーはその別バージョンで、一人で勝手に歌うらしい)

ちなみにこれは黒人奴隷の専売特許ではありません。日本にも同様のものがあります。


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また、黒人霊歌やバーバーショップ音楽から和声感覚を取り入れ、或いはその他の当時アメリカで流行していた様々なジャンルからも影響を受けつつ成立したと言われています。

「解放された奴隷がギターを自己流で適当に弾いたら出来た」みたいな一本道のストーリーを想像してしまいがちですが、実は意外にゴチャゴチャしているのです。

 

そんなブルースが「発見」されたのは1903年。

「W.C.ハンディが駅で電車を待っていると、近くにいた黒人が奇妙な歌を歌い始めた」というエピソードはあまりにも有名ですが、ただしこれは冷静に考えると突っ込みどころ満載で、真偽の程は不明です。

ハンディは1912年に「メンフィス・ブルース」、1914年に「セントルイス・ブルース」を発表します。

これらの曲は12小節単位で構成されていますが、当時はまだ12小節の曲は珍しく、酷評する人もいたようです。

 

ちなみにハンディは自伝にて次のように書いています。

「南部の黒人が歌うとき、音階の3度と7度の音で必ずぐっと力を入れ、長音程と短音程の間で不明瞭に発音する。私はメンフィスブルースにて、曲のキーは長調であるが、(今日ではブルーノートと呼ばれる)短3度と短7度を入れることで、この効果を伝えようと試みた」

 

ハンディは「ブルースの父」と呼ばれています。

私は「ハンディはブルースを生み出したのではなく広めただけなのに、何で父なんだよw」と思っておりましたが、このエピソードが本当ならば、「メジャーコード上に短3度や短7度のメロディを乗せる」という、我々がイメージする「あのブルース」を作ったのは確かにハンディだということになり、その称号も相応しいものとなります。


その後、1920年8月にメイミー・スミスがレコーディングした「クレイジーブルース」という曲が大ヒットし、これにより他のブルースシンガーも次々とレコードを出すこととなりました。


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つまり、これ以前のブルースは音源が(ほぼ)残されていないため、どのような形をしていたか、今となっては誰にも分かりません。

しかも、当時は黒人の音楽を売り出すときにはけっこう何でも「ブルース」と言っていたようなので、これが本当に当時の「ブルース」なのかどうかも怪しい状態です。

 

ちなみにブルースで使われる楽器と言えばギターですが、アメリカ国内でギターが普及するのは1920年代頃からなので、最初期のブルースレコードの伴奏は、ピアノやジャズのコンボのような編成も多く見られます。

19世紀にはバンジョーやバイオリンを使っていたらしいです。

 

30年代以降になると、ギターを使った我々がイメージする「ブルース」のレコードが主流になります。

一方ピアノで弾くブルースは、ブギウギへと進化することになります。

また、ブルース(やジャズ)は当時のクラシック界にも影響を与えており、例えばラヴェルはヴァイオリンソナタでブルース風の曲を書いています。


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「なぜラヴェルがブルースを…?」と思うかもしれませんが、実は当時のフランスではジャズやブルースがむしろ本国アメリカよりも流行していたそうです。


40〜50年代になると、エレキギターを使う人が増えてきます。

また、それまでのブルースはけっこう様々なコード進行が用いられていましたが、この辺りの時代から冒頭で紹介した12小節のテンプレートのコード進行が主流になります。

なぜ最終的にテンプレート形式に落ち着いたのかという点については、実はよく分かっていません。

「ブルースの元になった詩の形式が12小節だった」とか「一種類のコード進行で様々な替え唄を作ったため」とか「複数人でセッションするときに型が決まっていたほうがやりやすい」とか、説は色々あるのですが、結局のところは謎です。

 

50〜60年代になると「マイナーブルース」というものも登場します。
これはテンプレート進行の「Ⅰ・Ⅳ・Ⅴ」が、バークリー式で言うと「Ⅰm・Ⅳm・Ⅴ」に変わっただけです。
(これも細かい部分は曲によって変わります)
ただしこれはブルースと言うよりはジャズに含まれるので、生粋のブルースマンは覚える必要はありませんw


その後もブルースはブルースとして存在し続けますが、一方でポップス界にも多大な影響を与えます。

40年代頃からブルースの影響を受けた黒人ポップス(R&B)が誕生し、さらにその中からリズムが激しめの曲が生まれます。

50年代になるとその音楽を真似する白人の若者が現れます。当時としてはトンデモナイ不良です。

エルヴィス・プレスリーやビル・ヘイリーがその代表ですが、例えばビル・ヘイリーの「Rock Around the Clock」はブルースのテンプレート進行そのままです。

プレスリーの場合、テンプレート進行そのままの曲もいくつか有りますが、一行目(Ⅰ→Ⅰ→Ⅰ→Ⅰの部分)を2回繰り返して、全体を16小節にしたバージョンも見られます。

このような不良若者の音楽はロックンロール、後にロックと呼ばれ、世界中を支配することとなります。

 

21世紀となった今でも、当然ロックは現役バリバリの音楽ジャンルです。

現代では流石にテンプレート進行の曲は見られなくなりましたが、ブルーノートが現れるような曲は決して珍しくありません。

このように、現代ではブルースの影響を受けていないポピュラー音楽は皆無と言っても過言ではありません。

過酷な労働を強いられていた奴隷の口ずさんだ歌が、紆余曲折を経て最終的にはポップス界全てに影響を与える存在になるなんて、何だか泣ける話ですね。

 

さて、今回はブルースについて解説いたしました。

私には夢がある。それはいつの日か、日本の酒造り唄がポップス界全てに影響を与える存在になることだ!