音楽理論 ざっくり解説

音楽理論をざっくり解説します。最低限のポイントだけ知りたい方へ

移調楽器 後編

スポンサーリンク

移調楽器 後編です。

前編「移調楽器 前編」では移調楽器の基本的な考え方について学びました。

後編では補足説明を中心に解説していきたいと思います。

 

金管楽器

金管楽器はほとんどが移調楽器です。実音表記する楽器を探すほうが大変なくらい。

なので、下手に吹奏楽のスコアを読もうとすると頭がゴチャゴチャになります。

f:id:mie238f:20191222054841j:plain

これは放送事故か。それとも斬新な現代音楽か。(実は全部同じ音)

なぜこんな現象が起こるのかという理由は前編で説明した通りなのですが、特に金管楽器の場合、ちょっと違う理由もあります。

スポンサーリンク
 

 

壊れて出ない音がある

トランペットを思い浮かべてみましょう。

トランペットは今でこそオクターブの12音を全て出すことができますし、微分音だって出せてしまいますが、昔はバルブが備わっていなかったので、自然倍音列に基づく音しか出せませんでした。


Introducing the Baroque Trumpet

f:id:mie238f:20191222055121j:plain

昔のバルブ無しトランペットはこんな感じ。0分49秒頃からスケールを演奏してくれます。

(実際に出ている音は譜例より半音上。また、動画後半をご覧いただければ分かりますが、厳密に言うとこの男性が持っているトランペットならば譜面以外の音も出せます)

 

このように、低い音はほぼドミソのみ。高い音でもドミソ周辺の音しか出せません。バルブが無いとこうなってしまうのです。

これでは自由自在にメロディを吹くなんてことは無理ですし、ハ長調以外の曲は吹けません。もちろん転調も出来ません。

 

そのため、昔の人は様々なキーのトランペットを作ることでどうにか間に合わせたのです。私も詳しくは知りませんが、一応12種類全ての管が揃っていたようです。

現代でも、ブルースハープなんかは曲のキーに合わせて持ち替えますよね。それと一緒です。

 

さて、しかし現代のトランペットはB♭管ぐらいしか見かけません。バルブが発明された後、B♭以外の管は一体どこへ消えてしまったのでしょうか。

バルブが有ったとしても、曲のキーに応じて様々な管を使ったほうが演奏が簡単だと思うのですが…。

 

実は、あまり良い音がしないので次第に使われなくなってしまったのです。

おそらく管の長さや材質による固有振動数がどーちゃらこーちゃらという話だと思うのですが、まぁ簡単に言うとトランペットのあの長さ・重さ・材質だと、B♭の音が一番よく鳴るということです。(あとは音域とか音の出しやすさ等も関係しているようです)

 

一番よく鳴る音がCだったらC管が生き残ったはずなので、もしそうなっていれば誰も実音と記音の違いに苦しむことはなかったのですが、神様のイタズラで僅か2度下のB♭が良く鳴ってしまったため、現在のような阿鼻叫喚の状態が出来上がったのです。

(初心者の方のために一応説明いたしますが、現代でもC管のトランペットは生き残っています。ただやはりB♭管が圧倒的トップシェアです)

 

ハ長調???

ちなみに、ホルンやトランペットの楽譜には調号が書かれないこともあります。

f:id:mie238f:20191222055515j:plain

これを「inE♭」という表記をよく見ないで、うっかり調号だけで「♭が1個少ないということはF管だな!」などと判断してしまうと痛い目に遭います。

譜例のホルンパートはE♭のソとレなので、実音で言うとシ♭とファが鳴ります。実音楽器であるフルートと同じ音になるのが正解ですね。

 

なぜこのようなフェイントが繰り出されるのかと言うと、先程説明したように、昔のホルンやトランペットなどは基本的には自然倍音列の音しか吹くことができなかったわけです。

と言うわけで「どうせ#や♭が吹けないんだったら、調号は書かなくていいんじゃねぇの?」という怠惰な習慣が蔓延ってしまったのです。迷惑極まりない。

 

ハープ

移調楽器というわけではありませんが、ハープの楽譜は他のメンバーとは異なる調号が書かれることがあります。(譜例下側)

f:id:mie238f:20191222055901j:plain

 

ハープの弦は、初期状態では全てフラットなのです。つまり初期状態の弦を順番に弾いていくと「ド♭ レ♭ ミ♭ ファ♭ ソ♭ ラ♭ シ♭ ド♭」という音が出ます。

ですので、あまりに調号が多い曲を弾くときは「B=C♭」「F#=G♭」のようにフラットに読み替えたほうがハープ奏者にとって弾きやすいのです。

 

移高楽器

では最後にこれについて軽く説明して終わりにいたします。

あまりにも高い音・低い音を出す楽器の場合、実音のまま表記してしまうと加線だらけで大変なことになってしまうため、オクターブ上下させて書くことがあります。

実音表記とは異なるものの、調を変えているわけではないので移調楽器とは言わず「移高楽器」と言います。

f:id:mie238f:20191222060054j:plain

有名なところとしては、ピッコロの実音は楽譜よりもオクターブ高く、コントラバスの実音は楽譜よりもオクターブ低くなっています。

意外なところでは、小学校のときに吹いていたソプラノリコーダーが実際には楽譜よりオクターブ高い音を出しています。

 

また、ギターとベースは実際には楽譜よりも1オクターブ低い音が出ています。

ギターは、低音弦はト音記号で書くにはちょっと低く、高音弦はヘ音記号で書くにはちょっと高く、ハ音記号を使うのは現実的ではない。よって仕方なくオクターブ上げてト音記号で書いているのでしょう。

 

さて、今回は移調楽器について勉強しました。

なぜわざわざ記音と違う音を出すのか不思議でしたが、別に作曲家に対して意地悪をしたいわけではないということがよく分かりましたね。

 

ただ、やはり私は頭がゴチャゴチャになるので移調楽器は一生演奏できそうにありませんw