音楽理論 ざっくり解説

音楽理論をざっくり解説します。最低限のポイントだけ知りたい方へ

ポリコードとUST

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今日のテーマは、ポリコードとアッパーストラクチャートライアド(以下UST)です。

どちらも簡単に言えば、コードの上にもう一つコードを乗せたものを指します。分数コード「分数コード」とはちょっと違いますから、初心者の方は間違えないようにしましょう

 

コードの上にコード

まずは、ポリコードとは一体何なのかを実際に見てみましょう。

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このように、あるコードの上に、もう一つ別のコードが乗った形のものをポリコードと言います。

「ポリ」とは「複数」という意味です。ポリエチレンのポリと一緒ですね。

 

譜例を見て頂ければ分かりますが、ポリコードは横線を使って表記します。分母が下側のコードで、分子が上側のコードです。

分数コードは斜線ですが、ポリコードは横線です。たまに分数コードを横線で書く人がいますが、それは厳密には間違いですので注意しましょう。

 

上下で全く違う和音を弾くので、複調とも関係します。

上の譜例では左手がハ長調、右手がニ長調になっていますね。この状態のまましばらく曲が進行すれば複調と言えます。

 

さて、重要なのは「コードの上にもう一つコードが乗っている」という状態がハッキリ分かることです。

つまり、下の譜例のように2つのコードがグチャグチャに混ざってしまったら、それはポリコードとは言いません。

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上も下もどんな和音を使ってもいいのですが、大抵は3和音です。

あまり音が多くなると綺麗な響きが作りにくいですし、先程言ったように「ハッキリ分かる」という状態にするためでもあるのでしょう。


ちなみにポリコードの起源は保続音です。

保続音とは、主にバスパートに現れる長い音符のことです。保続音についてはこちら「非和声音(和音外音)」でも少し触れています。

保続音は大抵1音なのですが、たまに2音や3音のものも存在します。(同時保続音と言います)

ちょっと見てみましょう。

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上譜例2番目の和音は、Cコードの上にGコードが乗った形になっています。まさにポリコードですね。

 

何を乗せるか

当然ながら、ポイントになるのは「何のコードを乗せるか」です。

ポリコードは近代の音楽に登場する和音なので、まだ理論が整備されていません。

よって、何を乗せるかは自分で一から考えなければいけません。メンドクセーw

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上譜例の1番の和音はCコードの上にGコードを乗せていますが、これはあまり面白くありません。

なぜならこれはCM9のコードと同じですから、わざわざポリコードとして扱う程のものでもありません。

 

かと言って、2番のようにCコードの上にD♭コードを乗せてしまうと、これは前衛的すぎます。

まぁ前後の流れ次第では可能でしょうけど、もはやパーカッションのような響きですね。

 

結局3番のように、綺麗すぎず前衛的でもない丁度良いポイントを狙うしかありません。

この「丁度良い」を探すのが結構しんどいw

 

マイナーコードでも同様で、例えばCコードやCmコードの上にGmだと面白くないし、Cmの上にD♭mは前衛的すぎる。

丁度良いポイントを狙ってください。

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使用例

分かりやすい使用例はなかなか無いのですが、とりあえずベタにストラヴィンスキーの「春の祭典」などいかがでしょうか。


Igor Stravinsky - The Rite of Spring (1913)

 

3分29秒頃から弦の「ザッザッザッ」という音が聞こえますね。

これはEコードの上にE♭7を乗せています。(実音は下譜例よりオクターブ下)

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先程Cの上にD♭を乗せたときのように、パーカッションのような響きがしますね。

 

3つのポリコード

珍しいケースですが、3つ以上の和音を重ねることもあります。

この場合、重ね方に4つのパターンがあるようです。

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まずは、底和音の3度・5度の音をルートとするコードを重ねるパターン。

つまり底和音がCコードだったら構成音は「C・E・G」ですから、Cコード・Eコード・Gコードを重ねます。

 

次に、底和音の3度・5度の5度上の音をルートとするコードを重ねるパターン。

つまり底和音がCコードだったら構成音は「C・E・G」ですから、E音とG音の5度上で、Cコード・Bコード・Dコードを重ねます。

 

次に、底和音の3度・5度の5度上の5度上をルートとするコードを重ねるパターン。

つまり底和音がCコードだったら構成音は「C・E・G」ですから、E音とG音の5度上の5度上で、Cコード・F#コード・Aコードを重ねます。

 

ちょっとこの3パターンを聞いてみましょう。

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もっとカオスな響きになるかと思いましたが、意外と綺麗ですね。

状況次第では使えそう。

 

最後のパターンはちょっと複雑なのですが、まずは普通に2つのコードを重ねます。

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例えばCコードの上にDコードを重ねるとします。

この時、Dコードの構成音の3度・5度の音の5度上をルートとするコードを3つ目に持ってくることが出来ます。

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つまりDコードの構成音は「D・F#・A」ですから、F#音もしくはA音の5度上で、Cコード・Dコード・C#コード、もしくはCコード・Dコード・Eコードとなります。

 

UST

続いてアッパー・ストラクチャー・トライアドの解説に入ります。これはジャズで使われる用語ですが、ポリコードと似たような概念です。

英語でもそのまま「アッパー・ストラクチャー・トライアド」、もしくは単に「アッパー・ストラクチャー」とも言うようです。

 

「Upper Structure Triad」とは「上部構成3和音」という意味です。

ポリコードの上側の和音をアッパー・ストラクチャーと言い、下側の和音をロウアー・ストラクチャーと言うのです。

 

しかし正確な定義は決まっていないようで、ポリコードと同義で使う人もいます。

また、ポリコードは何でも有りだったのに対し、USTは上下の和音が同一スケールで構成されていないと駄目と言う人もいます。

和音であるとは限らず、あるコード上で全く別のコードトーンを使ってフレーズを作ることを指す人もいます。ギターの人はこの意味で使うことが多いですね。

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一方、米国では「USTとは7thコードもしくはトライトーンの上に置かれたトライアドである」と定義されているようです。

今回はこれについて考えてみましょう。

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下側の和音が7thコードもしくはトライトーンであるということは、和音全体としてはドミナントの機能を持ちますね。

つまりUSTとはドミナントコードのテンションを分かりやすく表したものです。

上の譜例の和音をテンションの形で表記するとC7(9 , #11 , 13)となって非常に分かりにくい。しかしD/C7と書いてあれば何を弾けばいいか一瞬で把握できます。

 

となると、USTを使う目的はテンションを稼ぐためですから、上下で音が重複してしまうのはあまり推奨されません。

例えばC7の上にGmを乗せるのは、ソとシ♭が重複していますからUSTとしては良くありません。

 

ただし、主旋律をUSTで弾く際などにトップの音が下の和音と重複してしまうのは、已むを得ないのでOKです。

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例えば上の譜例では、上下の和音でミの音が重複してしまっています。

しかし上側のミは主旋律なので変更するわけにはいかない。かと言って下側のミも、前後のコード進行の流れを考えると変更するわけにいかない。

よって、このような重複は仕方ありません。

 

また、UST和音はドミナントですから、その機能を邪魔するような音(アヴォイド)を含むコードは使えません。

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下の和音がC7だったら、ファとシがアヴォイドですね。これらの音を含むコードは使えません。

例えばD♭・Dm・E・Em・F・Fm・G・A♭m・B♭・B♭m・B・Bmなど。意外と多いなwww

スケールに詳しい方は、ドミナント上で使えるスケール(リディアン7th・オルタード・コンディミなど)から作れるコードを考えると、何が使えるか分かりやすいでしょう。

 

 

今回の解説は以上です。

ちなみに先程聞いて頂いた「春の祭典」は、そのあまりの斬新さのために、初演時には賛成派と反対派の間で大喧嘩となり流血沙汰にまでなったそうです。

曲中でポリコードを使う際は流血沙汰にならないようにご注意くださいw