今日のテーマは非和声音(和音外音)です。
分析上、全てのメロディ音はいずれかの和音構成音に属します。
ではそれ以外の音は一体何なのかと言うと、和音の構成音が一時的に変化したものであると考え、それを非和声音と言います。
非和声音にも色々な種類があるので、今日はそれについて勉強しましょう。
刺繍音
和音の構成音から2度上、もしくは2度下に進行し、元の音に戻ってくるものを刺繍音と言います。音の動きが、刺繍で針と糸が上下に行ったり来たりする様子に似ていることからこう呼ばれます。
本当のメロディはドだけのはずなのですが、最初のドが一時的に変化してレの音に行きます。一時的に変化しただけなので、これは不協和音でも何でもありません。
音楽ポリスがやって来て「そこのお前、不協和音を演奏しているな!」と言われても、「いえ、私はレに見えますが、ドが一時的に変化しただけです。すぐ元に戻りますからご安心下さい」と言えば、「そ…そうか、なら見逃してやる!」となります。
下に動く場合は、上方変位する(#になる)こともあります。
複数回上下した後に元の音に戻ってくるもの(上譜例左)を複刺繍音、2つ以上の音が行ったり来たりするもの(上譜例右)を同時刺繍音と言います。
実際の例としては、まぁ色々あるのですが、とりあえず童謡「チューリップ」など。
このミの音は、伴奏中(ソシレ)には含まれない音です。では一体このミは何処からやって来たのかと言うと、レが一時変化した形なのです。よって、すぐにレに戻ります。
ちなみに刺繍音は「ブロッドリー」と呼ばれることもあります。フランス語らしいです。難しい理論書には「このブロッドリー音が…」などと書かれていることもあるので、余裕のある方は覚えておきましょう。
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経過音
ある和音の構成音から別の構成音へと進行する際、間に非和声音を挟むことがあり、その音を経過音と呼びます。
刺繍音のときと同様、複数の音を挟む場合(下譜例左)は複経過音と言い、2音以上が同時に経過音を奏でること(下譜例右)を同時経過音と言います。
経過音も実際の使用例はいくらでもあるのですが、とりあえず再びチューリップを。
ドからいきなりミに飛ぶと唐突なので、レを挟んで滑らかな進行にしています。
経過音は英語で「Passing tone」と言います。ポピュラー系・ジャズ系の本には「パッシングトーン」「パッシングコード」などという用語が登場することもあります。
掛留音
和音が変化する際に、ある声部が少し遅れて解決される場合、それを掛留音と言います。
基本的には下行するものなのですが、稀に上行することもあります。(下譜例)
掛留音ののち、さらに刺繍音などで装飾される場合もあります。(下譜例)
2つ以上の声部が同時に掛留音を奏でる場合、それを同時掛留音と言います。
実際の使用例を紹介したいのですが、あまり良い曲が思い付かなかったので、「きらきら星」を掛留音を使ってアレンジしてみましょう。
このように、本来の和音交替点に対してちょっと遅れて変化する音を掛留音と言います。和音はとっくに変化しているのに、ある音だけがいつまでも解決しないので、なかなかスリリングな雰囲気を出すことが出来ます。
英語では「suspension」と言います。
倚音
前の和音の構成音とは関係なく、ある和音上でいきなり2度上(もしくは下)に現れる非和声音を倚音と言います。掛留音からタイが取れたような形ですね。
刺繍音のときと同様、上行する際は上方変位することが多いです。(下譜例)
和音が変化する前に登場してしまう場合もあり、果たしてそれは倚音の定義的にどうなのかと思うのですが、とにかくそれを後部倚音と言うそうです。(下譜例)
使用例としては、ビートルズの「Yesterday」など。
いきなり和音中(ファラド)には含まれないソの音から歌が始まります。このままだと不協和音になってしまうので焦るところですが、すぐにファの音に解決することで「あ~良かった」と安心します。掛留音同様、スリリングな雰囲気を出すことが出来ます。
名曲にはこのような「緊張と緩和」が欠かせません。当時20代前半の、おそらく音楽理論なんてほとんど知らないポールは、夢の中でこのメロディを思いついたそうです。だから天才なのです。
倚音は「アポジアチュール」「アポジャトゥーラ」などと呼ばれます。多分イタリア語だと思うのですが、正確なことは分かりません。
先取音
和音が変化する前に、次の和音の構成音が登場してしまうことを先取音と言います。掛留音は遅れて解決する音のことでしたが、調度それの逆バージョンみたいな形ですね。
逸音
一般的には、本来進行するべき方向とは逆方向に一旦進み、そこから本来の方向に戻ってくることを指します。広義では、今まで登場した非和声音では説明できない「その他」の音を指すこともあるようです。
保続音
これは非和声音の中でもちょっと特殊なのですが、和音が変化しても延々と一つの音を奏で続けることを保続音と言い、一般的にはバスのパートに現れます。
上の譜例では、最初の3小節が「でっかいG」、最後の3小節が「でっかいC」として考えます。(上声部の連結は適当です)
保続音は、オルガンの足鍵盤でよく弾かれたことから「ペダル」とも言います。
これらの概念は、和声の難しい課題をやったり、クラシックの分析をするときには役立ちますが、普段のポップスの作曲でこんなことを考えていたら目眩を起こしてしまいます。
とりあえず知識だけは何となく頭の片隅に入れておいて、実戦ではあまり考えすぎず気楽にやりましょう。