音楽理論 ざっくり解説

音楽理論をざっくり解説します。最低限のポイントだけ知りたい方へ

フラメンコ 前編

スポンサーリンク

今日のテーマは、スペインのフラメンコです。

お隣のフランスやドイツやオーストリアやイタリアの音楽ってお互いに似たり寄ったりで判別が難しいのですが、フラメンコは誰でも分かりますよね。

と言うわけで、今回はその辺の理由や秘密も含めて解説します。

 

歴史

そもそもスペインは長い間イスラム王朝の支配下にあったので、ヨーロッパの中でも特殊な文化を持った国です。だってスペイン王国成立以降よりも、イスラム王朝の支配下にあった期間のほうが長いんだから。(特に南の方は)

なぜ中東で興ったイスラム王朝とヨーロッパの端っこにあるスペインが関係あるのかと言うと、イスラム王朝は北アフリカまでビヨーンと勢力を伸ばしていたからです。つまり現在のモロッコの辺りからジブラルタル海峡を渡ってスペインに攻め込んだのです。

調べてみたら、ジブラルタル海峡は最も狭い場所で14kmしかないそうです。これは東京湾アクアラインと同じ距離です。遠泳の選手だったら泳いで行けそうですね!

 

…えーっと、話が変な方向に行ってしまいましたが、つまりスペインはイスラム文化の影響が強いので、フランスやドイツとは違うよ、ということです。当然これは音楽についても同様です。

f:id:mie238f:20190615225054j:plain

そんな中、スペイン南部のアンダルシア地方(図の赤い部分)に住みついたジプシー(ヒターノ)の人達が、土着の音楽を発展させる形で誕生したのがフラメンコです。

成立年代は諸説あってよく分からないのですが、我々がイメージする「あの形」になったのは19世紀頃らしいです。意外と歴史が浅いですね。

歴史の浅さ、及び外国人であるジプシーが作った音楽であることから、スペイン人は「スペイン音楽=フラメンコ」と思われるのを嫌がるそうです。そりゃそうだ。

スポンサーリンク
 

 

フラメンコの奏法

フラメンコギターの奏法は独特で、普通のアコギの指弾きとはかなり異なります。とにかく右手の全ての指を総動員します。

小指から人差し指へと一本ずつ「ジャラララ~ン」とストロークしていくラスゲアード奏法は有名ですよね。他にも、普通親指はダウンでしか使いませんが、フラメンコではアップでも用いたりします。

あとは人差し指と中指を高速で動かしてフルピッキングのような状態を作り出すピカード奏法や、ボディを叩くゴルペ奏法などがあります。


Rasqueado Flamenco Guitar Lessons Free

これ以降に紹介するコードやリズムのテクニックを駆使しなくても、これらの奏法さえマスターしてしまえばフラメンコに聞こえるのではないかと思えてしまいますね。

 

スパイスは開放弦

次にコードの押さえ方を見てみましょう。

フラメンコはコードも独特で、通常とはちょっと違うフォームで弾きます。基本的には開放弦の音を混ぜることが多いです。実際に見てみましょう。

f:id:mie238f:20190615230007j:plain

 

Amは一緒ですね。Gは1弦が開放になった形。Fは1・2弦が開放。そしてEは4弦が1つ先のフレットを押さえていますね。

Gはともかく、Fの場合、構成音「ファ ラ ド」に対して開放弦のシとミが混ざるわけですから、当然音は濁ります。Eも同様で、構成音「ミ ソ# シ」に対してファが加わりますから濁ります。

しかしこの濁り具合が情熱的なのです。先程の右手の複雑な奏法でこれらのコードを弾けば「オーレ!」と叫びたくなってしまいます。

 

試しに「Am→G→F→E」というコード進行を聞いてみましょう。前半が通常バージョン、後半がフラメンコバージョンです。

打ち込みだとちょっと伝わりにくいですが、「どちらがフラメンコか」と言われれば確実に後半ですよね。特にFとEのコードが情熱的です。

 

 

他のキーも見てみましょう。

f:id:mie238f:20190615230648j:plain

う~む…Dmが放送事故ですね。果たしてこれはDmと呼んでいいのでしょうか…。ただ、基本的にはルートが変わるだけですから、コードチェンジは簡単そうですね。

 

ちなみにB♭は次のような押さえ方も使われます。いや、むしろこちらが主流かも。

f:id:mie238f:20190615230801j:plain

 

ポップスのコードでも押さえ方が何種類か存在するように、フラメンコのコードも人や曲調によって押さえ方は色々あります。

しかも「ドミソ」とか「ソシレ」を正確に押さえる通常のコードとは違い、「開放弦やテンションを何となく混ぜる」という独特のユルい慣習の元に成り立っていますから、そりゃ沢山の押さえ方があって当然です。良く言えば自由で寛容。悪く言えばテキトーなのです。

 

他にもフラメンコではいくつかのコードが使われますが、もちろん私も全ての押さえ方を知っているわけではありません。

しかし、フラメンコで使われるキーのバリエーションはそれ程多くありません。ほとんどが#♭共に1つまでで、調号3つ以上はほとんど見られません(ただし例外的に#4つはたまに見かけます)。なので沢山のコードを知らなくてもあまり心配する必要はありません。

それに、先程FとB♭を学びましたから、いざとなったらそれらのポジションを移動させれば大体のコードは弾けますね。

 

スケール

フラメンコでは普通のメジャーやマイナーの音階が使われることもありますが、最もよく使われるのはフリギア旋法(ミの旋法)です。

f:id:mie238f:20190615231017j:plain

上の譜例1がフリギア旋法ですが、フラメンコでは譜例2のように第3音に#を付けることが度々あります。よってこれを特別にスパニッシュ・スケールと言います。(ソとソ#を共存させて8音スケールにする人もいます)

Aハーモニックマイナーがミから始まった形ですね。スケールに詳しい方は、ハーモニックマイナー・パーフェクト・フィフス・ビロウ(hmp5)というアホな名前のスケールを思い出して頂ければ分かりやすいかと思います。

 

スケールを適当に上下させるだけで何となくフラメンコっぽくなります。

しかし、これをスパニッシュ・スケールと呼ぶのは多分日本だけです。英語では「スパニッシュ・フリジアン・スケール」とか「フリジアン・ドミナント・スケール」などと言うようです。本場スペインで何と呼ばれているかは分かりません。

「たいして変わらねーじゃん」と思うかもしれませんが、長調や短調など、他の音階・旋法を使った曲もスペインには沢山あります。冒頭でお伝えしたように、フラメンコとはスペイン音楽のほんの一部分でしかありません。

当のスペイン人はどう思っているのでしょうか。私だったら、例えば「ドレミソラ」を「ジャパニーズ・スケール」などと言われたら「いや、日本の音楽ってそれだけじゃねーから!」と言うでしょう。

スペイン人が「ソを#にしたミの旋法こそ我々の音楽だ!」と思っていないのであれば、スパニッシュ・スケールという呼び方はやめたほうがいいかもしれませんね。

 

そもそもこの#は何のために付いているのかと言うと、上行しやすくするためなのです。

f:id:mie238f:20190615231744j:plain

上の譜例のように、下部刺繍音を挟んで目的の音に到達する場合、上行するパワーを強めるために刺繍音を上方変位させることがあります。

フラメンコはミの音が主音であるとは言え、やはりラの音も重要な役割を果たすので、ラにスムーズに進行するために度々ソ#が登場します。そのせいで「フラメンコはソが#だ!」と言われてしまうだけなのです。

ソをナチュラルのまま使うこともあるし、ソ以外の音が#になることも当然あるし、何より「ファ→ソ#」という増2度音程の進行は我々が思っているほど多くは使われません。

 

 

さて、まだまだ説明したいことはあるのですが、ちょっと長くなってしまったので続きは後編で。 

www.mie238f.com