音楽理論 ざっくり解説

音楽理論をざっくり解説します。最低限のポイントだけ知りたい方へ

インド音楽 後編

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インド音楽 後編です。

前編「インド音楽 前編」では簡単な特徴や歴史とラーガについて勉強しました。

後編ではインド音楽で主に使われる楽器と、リズムについて見てみましょう。

 

楽器

まず我々がイメージするインドの楽器と言えばシタールですが、これは13世紀にペルシャからやって来た楽器がルーツとなるものの、現在のポピュラーな地位に上り詰めたのは割と最近(18〜19世紀頃)と言われています。

演奏用の弦が7本、フレットの下側(?)に11本の共鳴弦が張られています。(共鳴弦の本数は多少増減するらしい)

チューニング方法は何種類かあるようですが、よくあるのはギターで言う1弦側から順にF C G C G C C

ただし前編で言ったようにインド音楽は絶対音高ではないので、これが半音上がったり全音上がったり、ピッチは色々と変わります。

 

続いて共鳴弦ですが、これは演奏する全ての音に共鳴させるため、スケールの全ての音に合わせます。

例えばCメジャースケールの場合は、上譜例のようにチューニングします。

7音未満のスケールの場合はどうするのか、そこまでは分かりませんが、重複させまくるのか、或いはもしかしたら適当に2度間隔にしておくのかもしれませんね。

インド楽器には決まった形というものがなく、シタールにしてもその他の楽器にしても、弦の数やチューニングにいくつかのバリエーションがあるようです。


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前編で言ったように、インド音楽の旋律は基本的にスケールを順次進行で上下動するものです。

よって、専らギターで言う1弦のみを上下することで旋律を奏でます。

それ以外の弦は何に使うのかと言うと、1弦を弾く際に一緒に開放弦の状態でストロークして、ドローンと言うか…音をゴージャスにすると言うか…ともかくそのように使います。

一応、高いほうから順に主旋律弦、基調音弦、2本のドローン弦、3本のリズム弦という内訳になっているらしいのですが、私には主旋律弦以外は適当に弾いているようにしか見えない…w

 

その他の特徴としては、シタールには指板がなく、弦の真ん中辺りだと5度くらいチョーキングできること。

あと撥弦楽器の割に音を長く伸ばせるので、トレモロは使われないことなどがあります。

 

また、シタールと言えば「ビーン ビーン」というビビリ音が特徴的で、津軽三味線も「サワリ」という同様のビビリ音を味としますが、実はインドでもこれを「ジャワリ」と呼ぶのです。

なぜ似た名前で呼ばれるのか真相は謎ですが、なにかロマンを感じますねw


シタールの相棒として使われる打楽器がタブラです。

大小2つセットの太鼓ですが、小さいほうをタブラ、大きいほうをバヤンと言い、正式には「タブラ・バヤン」と言うそうです。

鼓面に「ガブ」という黒い重りが貼り付けてあり、これによって倍音が強調され、大きいほうは見た目の割に重厚なサウンドとなり、小さいほうは叩き方や場所によって異なる音色が出せます。


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だいたい20種類くらいの音を叩き分けると言われています。

例えばタブラのリムショットTa(タ)、リムのやや内側を叩くTin(ティン)。

バヤンのリムショットKe(カ)、リムのやや内側を叩くGe(ゲ)など。

あとはこれを組み合わせて、例えばTaとGeを同時に叩くとDha(ダ)、TinとGeを同時に叩くとDhin(ディン)となります。

 

他にも色々あるらしいのですが、私は打楽器には詳しくないので細かいことはよく分かりませんw

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南の楽器

このシタールとタブラは北側でよく見られる楽器なのですが、この「弦楽器+打楽器」という編成自体は南でも変わりません。

ただし楽器はヴィーナとムリダンガムに変わります。

 

ヴィーナは見た目はシタールのようですが、比較的大きい。

これはインド発祥の楽器で、名前も「弦楽器」という意味らしい。

 

7本弦で、それぞれの弦の役割はシタールとほぼ一緒。

4本が演奏用の弦、3本がドローン弦です。

演奏弦の高低はギターとは逆で、ギターで言う6弦側が高音、1弦側が低音です。

チューニングは6弦側(高音)から順にC G C G ですが、どうやらシタール以上にピッチが変わるようなので、階名でド ソ ド ソ と覚えておいたほうがいいかもしれません。

ドローン弦のチューニングはド ソ ド

共鳴の意味ももちろんあるのですが、強調したいときに演奏弦と一緒に弾きます。

シタールは「常に」と言っても過言ではないほど他の弦も一緒に弾きまくりますが、ヴィーナはそこまでではありません。

また、ギターで言うブリッジ側にもチューニング機能がついており、微調整はこちらで行うらしい。


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弁才天のルーツであるサラスヴァティーが持っている楽器としても有名で、神が持つ神聖な楽器だから…かどうかは知りませんが、ボディに綺麗な装飾を施したものもよく見られます。


ムリダンガムは大きめの太鼓で、これもタブラ同様鼓面に重りが貼り付けてあり、多数の音色を出すことができます。

右手で真ん中辺りを叩くTi(ティ)、リムショットのTa(タ)、左手で真ん中辺りを叩くKi(キ)、リムショットのGe(ゲ)。

TaとGeを同時に叩くDha(タ)、TiとGeを同時に叩くDhin(ディン)などがあります。


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ただ再度申し上げますが、私は打楽器には詳しくないのでよく分かりませんw


また、北でも南でも共通して用いられるのがタンプーラ(タンブーラ)です。

タンプーラは4本弦の楽器で、ソ ド ド ド でドローンを奏でます。

ソがないスケールの場合はファ。

ソもファも無い場合はミとかラにチューニングするらしいのですが、ソもファも無いラーガとは何なのか、私もそこまでは分かりません。

この楽器もジャワリを用いるため、単なるドローン楽器なのに妙な存在感を放ちます。

ひたすらドローンを示し続ける楽器であり、別に小節頭に弾かなければいけないとかそういった決まりもないため、人間がやる必要はなく、最近では電子タンプーラもよく使われます。


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例えばyoutubeにも「タンプーラ1時間」みたいな動画がありますが、演奏開始時にこれを再生し、終わったら止めればいいのです。

(勿論これはこれで賛否両論あるようです)

 

一番の目的は演奏者に主音を伝えることなので、極端な話、お客さんには聞こえなくてもいいらしいw


それ以外の楽器としては、例えばフルート系の笛なんかが使われるそうです。

バイオリンはフレットが無いためかインド音楽と相性が良いようで、これもよく使われます。

ただし調弦は通常とは全く異なり、ソ ド ソ ド 或いは ド ソ ド ソ(階名)がよく用いられるそうです。

 

逆に、チョーキングやスライドが不得手である鍵盤楽器、或いはハープやダルシマー系の楽器は相性が悪いようで、あまり使われません。

それどころか、中にはインド音楽に鍵盤楽器を用いることを絶対許さない人もいるようです。

 

ただし(インドと言えば映画ですが)映画音楽では西洋楽器・電子楽器を使用したり、伝統音楽に平気で和声をつけてしまったりするようで、この辺がインド人の良いところと言うか、悪いところと言うか…w

 

ターラ

前編でラーガについて勉強しましたが、旋律を司るラーガに対して、リズムを司るのがターラ(タール)です。

これも「時間、天体の運行や四季の移ろい、輪廻転生、生と死」のような哲学的な面も勿論あるのですが、音楽的な部分だけで言えば「繰り返すリズムパターン」のような意味らしい。

 

まずは拍子だけを軽く見てしまいましょう。

南側では、1拍と2拍とX拍の組み合わせによる拍子パターンが存在します。

この7パターンです。

Xの部分には 3・4・5・7・9 拍のどれかの数字が入ります。

つまり一番下の「X X 2 2」であれば、X=3 を代入して「3 3 2 2」になったり、X=9 を代入して「9 9 2 2」になったりするわけです。

(Xが2つ以上あっても、異なる数字が入ることはない)

 

すると、7パターンの拍子に対してXの部分にそれぞれ5種類の数字が入るので、7 × 5 で合計35パターンとなります。

 

この35種類の中でよく使われるのは、

この5種類らしいが、「3 4」は先程のパターンからは作れないのが不思議w

 

西洋音楽と比べると恐ろしく複雑な拍子ですが、これはインドのリズムも詩の韻律から発達したからだそうです。

この辺りもアラブ音楽と共通していますね。

 

さて、北側ではX拍は有りませんが、よく使われるのは

の11種類であると言われています。

一部カブっている拍子もありますが、打楽器を演奏する際の叩き方が違うらしい。

 

例えば一番下の「4 4 4 4」について見てみましょう。

これらの拍子に、前のチャプターで軽く触れたTiとかTaのような口三味線(ボール)を当て嵌めると、一つは、

となり、もう一つは、

というパターンで叩かれるそうです。

しかしこれも流派によっていくつかのパターンがある上に、北ではあまり厳格に則っているわけではないらしい…


例えば西洋音楽の4拍子は「強 弱 中強 弱」のようなアクセントで表されますが、ターラにも似たようなものが存在します。

パターンの頭が最も強く打たれ、これを「サム」と言います。

パターンの中間辺りに「カーリー」と呼ばれる空白の拍があり、その他の重要な拍は「ターリー」と言うそうです。

先程の「4 4 4 4」のパターンならこうなります。

他の拍子もだいたいこんな感じです。

例えば「2 3 2 3」なら、2の頭でサム、3の頭でターリー、2の頭でカーリー、3の頭でターリーです。

 

つまりカーリーによってリズムの中間部分を示すわけですが、中にはカーリーが複数あるパターンもあり、その場合は必ずしも真ん中にカーリーを置くとは限りません。

例えば「2 2 2 2 2」ならば、各数字の頭に、サム・カーリー・ターリー・ターリー・カーリーが置かれます。

 

また、カーリーが存在しないパターンも中にはあり、例えば「3 2 2」は各数字の頭でサム・ターリー・ターリーとなります。

 

インドにはサム・カーリー・ターリーを表すための独特の手拍子があり、インド音楽のコンサート映像を見ていると、客席でこの手拍子を打ちながら曲を聞いている人がけっこういて面白いですよw

 

ちなみに先程言った通りカーリーとは「空白」で、手拍子などではその部分はちゃんと空白(手拍子を打たない)にするのですが、実際の演奏ではカーリーのときも普通に叩いていますw

一応ミュート気味…と言うか、ちょっと弱めに叩いているらしいのですが、私にはよく分からんw

 

シンコペーション

今紹介したのは基本パターンです。

複雑なパターンもちょっと見てみましょう。

 

インド音楽で複雑なリズムを奏でたいときによく見られるのは、一つは細かくする手法。

例えば8分音符で叩いていたものを16分音符にしたり、16分音符で叩いていたものを32分音符にしたり。

まぁこれはポピュラー音楽でも見られるし、イメージしやすいですね。

 

もう一つは、割り切れない数の音符をパズルのように当て嵌めていって複雑なシンコペーション…というかポリリズムというか…そういったものを作り出す手法です。

 

具体的に考えてみましょう。

2個・4個・8個といった数の音符であれば、拍の中に簡単に収まります。

しかし3個・5個・7個などは上手く収まりません。

(3連符とか5連符を使うのは無し)

 

こういった半端な数のまとまりを組み合わせたり(下譜例1)、何個も繋げたりすればシンコペーションが生まれます(下譜例2)

さて、シンコペーション的テクニックの見せ所となるのが打楽器ソロ。

特にその中でも、北では「ティハイ」、南では「アリディ」と呼ばれるソロの最後の部分です。

これはある音符のまとまりを3回繰り返して、小節頭でピタッと合わせることを指します。

(以下、音符の数や規則を分かりやすくするためにメロディ風に表します)

例えば上のように「ドレミファソ」というまとまりを3回繰り返し、最後のソを小節頭にピタッと合わせるのです。

 

まぁこの程度なら誰でも余裕で出来ますね。

というわけで、もっと難しいパターンに挑戦してみましょう。

 

一つ目は、上の譜例を更に3回繰り返す。

つまり「ドレミファソ」を「A」とすると、上の譜例は「AAA」でしたが、次は「AAA AAA AAA」です。

試しに「A = ドレミ」で作ってみましょう。

勿論、実際の曲ではAはもっと長いですよ。

今は説明を分かりやすくするために最小限の長さにしています。

 

或いは、Aの前にオマケというか、イントロ的なものが付くバージョン。

つまり「XAAA」というパターン。

そして更にそれを3回繰り返した「XAAA XAAA XAAA」というパターン。

(X = ソファミレ , A = ドレミファソ)

シンコペ具合が微妙ですが、ともかく理屈としてはこんな感じです。

この形式は長いものだと81拍、つまりパーカッションは27拍のパターンを3回繰り返す。

一方、曲は16拍周期のリズムが5小節進行し、6小節目のアタマでピッタリ合う、というものがあるそうです。

流石にこれは即興ではなく予め作られたものですが、それにしてもやはりインドは数学の国ですね。

 

ティハイ、及びアリディには他にも様々な形式があり、例えば「AAA BBB CCC」とか。

或いは南には、一つのまとまり「A」の音数が増える(下譜例3)、或いは減る(下譜例4)パターンもあるそうです。

 

また、今まで紹介したものは各まとまり「A」の間に休符を挟んでいましたが、挟まないパターン(下譜例5)

或いは、今まで紹介したものは小節の頭で合わせていましたが、頭ではなく小節の終わりにピッタリ収めるパターン(下譜例6)

(拍数は適当)


その他色々。

もしかしたら、数学的に理屈の通った形になっていれば何でもいいのかもしれませんw


インド音楽の超複雑なリズムを極めるとこうなります。


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全く理解できない…∑( ̄□ ̄;)

 

しかし安心してください。

インド音楽といえども、別にいつもこのような複雑なリズムを奏でているわけではありません。

 

先程言ったように、こういった技は打楽器ソロ、或いは曲を盛り上げたいときにちょっと使う感じで、普通はちゃんと分かりやすいパターンを叩いてくれます。

ドラムにも、7ストローク・ロールとかドラッグ・パラディドルといった難しいテクニックが色々ありますが、それらをのパターンの中で使うかと言えば全然そんなことはありませんよね。

 

今回の解説は以上です。

インドの過去の偉大な音楽家は、演奏により火を起こしたり雨を降らせたりしたと言われています。

私もいつかは音楽をマスターして、そんなことをやってみたいものです。

 

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