今回は、私が「やられた!」と思ったコード進行をいくつか紹介したいと思います。
基礎的な音楽理論を勉強していれば、実際に使う・使わないはともかくとして、大抵の進行は思いつくものです。しかし稀に「これは一生かかっても思いつかない!」と思うような進行に遭遇します。
ベートーベン 交響曲第1番
いきなりクラシックかよw と思うかもしれませんが、この冒頭のコード進行が衝撃的でした。
なぜ冒頭にC7 www
意味は…まぁ説明しなくてもお分かりだとは思いますが、次のコードがFなので、その和音と滑らかに連結するために7thの形にしたわけですね。
交響曲の形式や編成を整備し、104曲もの交響曲を生み出したハイドン。200年以上も世界中で演奏され続ける程の超ポップでキャッチーな作品を次々発表し、最初の交響曲は僅か8歳で書いたという天才モーツァルト。この2人の偉大な先輩の作品を超えるために、ベートーベンが悩みに悩んで捻り出した必殺技が「冒頭にC7」だったのです。(勿論それ以外にも革新的な点は沢山ありますが…)
普通、曲の冒頭は何も考えずにCを置くのが当たり前です。しかし天才はそんな「当たり前」の部分も油断せずに熟考し、最適な音を置くのです。
「ベートーベンには一生勝てないな」と、この曲を初めて聞いたときに私は思いました。別に勝とうと思っていたわけではありませんがw
この曲についてはこちら(ベートーベンの交響曲第1番)でも解説しています。
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マツケンサンバⅡ
続いてはマツケンサンバです。流行りましたねー。懐かしいw 作曲はNHKの子供番組「クインテット」でお馴染みの宮川彬良先生です。
一体なぜこんな曲が生まれたのかご存知ない方が多いので一応説明しておくと、松平健が出演するショーがありまして、歌やら踊りやら芝居やら色々披露するわけですが、そのショーの最後にアンコール的な感じでドカンと派手に一曲歌うのです。
そのアンコール用の曲として1994年に作られたのがこの曲。それがなぜか10年後の2004年に大ヒットしたということです。
足軽やら腰元やら悪役やら、出演者総出で歌って踊って締めるので、こんな大量の人が舞台上にいるし、イントロや間奏も長いのです。
話を戻すと、これも先程と似たような感じなのですが、1分55秒あたりの「マツケンサンバー」のところでGaugが使われているのです。
普通のGならまだ理解できますが、まさか「#5」させてくるとは思いませんでした。私だったらここは何も考えずにGmにしてしまいます。先程同様、やはり常にあらゆる可能性を考えなければいけないな、と思わされた一曲です。
この曲は随所に宮川先生の技が散りばめられていて、他にも例えば2分14秒あたりの「マツケンサンバー」でも素晴らしいコード進行が使われています。
凄いですねー。何度も言いますが、この「普通だったら何も考えずにB♭を置いてしまうところ」に技を入れてくるのが凄いのです。
宮川先生だけに「ためいきが出ちゃう」って感じですね。(←座布団1枚)
Go Tight!
次はこれ。創世のアクエリオンというアニメの後期オープニング曲となった「Go Tight!」です。前期オープニングがあまりにも有名なので陰に隠れがちですが、後期もそれに勝るとも劣らない名曲です。作曲は菅野よう子氏ですね。
これは冒頭2小節目でいきなりDmが使われます。
この和音の意味としては、通常はEm/Dにでもする場面なのでしょうが、その次のCM7にスムーズに連結するためにG9/Dに変更して、そこからソとシを省略したのです。
もしくは、単純にCに対する「Ⅱ→Ⅴ→Ⅰ」のⅤを省略した進行とも考えられますね。
この曲ではAメロ(0分38秒頃)でも「Bm→Am→GM7」という同様のコード進行が使われており、曲に統一性を持たせています。
ちなみに私は前期オープニング曲のタイトルが全く思い出せず、「創世のアクエリオンの曲のタイトルって何だっけ…」と、一週間ぐらい悩んでいた経験がありますw
バイク
もう一つ菅野よう子氏の作品を紹介しましょう。地球少女アルジュナの挿入歌「バイク」です。残念ながらこの曲はネット上に原曲がありませんでした。
イントロ・AメロがF/CとF#/Cの繰り返しだけで出来ています。E♭mなど、似たようなコードを使うこともありますが、基本的にはこの2つです。
「ドドドド…」というベース音はバイクのエンジン音でしょうか。また、FからF#に進行することによってフワッと浮き上がるような印象を与えていますね。
あまり有名な曲ではありませんが、疾走するバイクのスピード感をたった2つの和音だけで表した名曲です。
レイダース・マーチ
最後にこれを紹介して終わりにしましょう。インディ・ジョーンズのテーマ曲「レイダース・マーチ」です。作ったのは映画音楽の巨匠、ジョン・ウィリアムズですね。
マーチなので、難しいコード進行は使われません。基本的にはCとGだけで曲が進んでいくのですが、0分16秒頃にいきなりD♭のコードが登場します。
理論的にはそれほど難しくはありませんが、CとGの中にいきなりD♭を放り込むのはなかなか勇気が必要ですね。
ハリウッド系の音楽には、このような唐突な転調・借用がよく使われます。私も真似してみようと思うのですが、なかなか上手くいかないものです。昔は「これは日本人と米国人の感性の違いだから仕方ない! 逆に米国人には尺八や三味線の曲は書けないだろう!」などと思っていたのですが、日本人でも一流の先生方はちゃんとハリウッド風の曲もお書きになるので、原因は単純に私の実力不足なのでしょう。
さて、色々と紹介してまいりましたが、いかがでしたでしょうか。私も一生に一度でいいからこんな曲を書いてみたいものです。
とりあえず「インディ・ジョーンズ5」が2021年に公開予定らしいので、それまでジョン・ウィリアムズが健在であることを願っています。