音楽理論 ざっくり解説

音楽理論をざっくり解説します。最低限のポイントだけ知りたい方へ

移調楽器 前編

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今日のテーマは移調楽器です。

移調楽器とは、簡単に言えば譜面に書かれた通りの音が出ない楽器のことです。例えばトランペットは、楽譜に「ド」と書かれていても、いざ吹くと2度下のシ♭の音が出てしまいます。

今回はそんな面倒…いえ、個性的な楽器について学びましょう。

 

カポタスト

おそらくこれを読んでいる方はバンドマンが多いはずなので、なぜ移調楽器などという面倒なものが存在するのか、まずはギターで説明いたします。

ギターのことが分からない方は、次のチャプターまで飛ばして頂いて構いません。

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ギタリストのA君は、普段はカポ無しでギターを弾きますが、たまに1フレットにカポを付けて演奏することもあります。

まず、カポ無しギターを弾いているときに楽譜に「C→G→C」と書かれていたら、A君はどうするでしょうか。答えは簡単で、A君は「C→G→C」を弾き、実際に出る音も「C→G→C」ですね。

 

では1カポギターを弾いているときに、楽譜に「C→G→C」と書かれていたらどうでしょうか。

これはちょっと複雑で、A君は「C→G→C」を押さえるのですが、カポタストを装着しているので実際に出る音は「C#→G#→C#」になってしまうのです。

 

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ここでのポイントは3つ。

まず、カポを付けていようが外していようが、どちらもギターであることに変わりはなく、A君は両方同じように演奏できるということ。

それからA君はどちらもC , G という共通の押さえ方をしていますが、実際に出る音はカポタストの有無によって異なるということ。

最後に、A君が1カポギターを持っていて、C#のコードを弾いて欲しいときには、楽譜には「C」と書いてあげたほうがA君にとって分かりやすいということです。

 

ちなみに、カポタストについて詳しく知りたい方はこちら「カポタスト 前編」をご覧ください。

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同属楽器

楽器には「属」というグループが存在します。生物にも似たような分類がありますよね。「ネコ科ヒョウ属ライオン」とか。

それと一緒で、フルート属にはピッコロ・フルート・アルトフルートなど。オーボエ属はオーボエ・オーボエダモーレ・イングリッシュホルンなど。様々な仲間が存在するわけです。

ちなみにサクソフォーン(サックス)属はソプラノ・アルト・テナー・バリトン・バスなど、名前がそのまんまなので分かりやすいですね。楽器をやったことがない方でも聞いたことがあるかと思います。

 

これら同じグループに所属する楽器は、当然ながら非常に似ています。見た目や構造は勿論ですが、音色や演奏方法も似ています。

よって、ギタリストがベースやウクレレも弾けるのと同じように、オーボエ奏者はオーボエ属の楽器を全て演奏することができます。オーボエ奏者が曲の途中で一部イングリッシュホルンも担当する、ということも度々あります。(これを「持ち替え」と言います)

 

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指使いはどうでしょうか。

例えばオーボエで上の図のように押さえると「ソラシドシラソ」という音が出るので、カエルの歌を演奏することが出来ます。イングリッシュホルンも同じ押さえ方で音を出すことが出来ます。(音源後半)

 

…あれ、オーボエとは音が違いますね。少し低い。

 

実は、イングリッシュホルンから出ている音は「ドレミファミレド」なのです。

オーボエの「ソラシドシラソ」の押さえ方をすると、イングリッシュホルンでは5度下の「ドレミファミレド」の音が出ます。ややこしいですね。

 

このままではオーボエ奏者は困ってしまいます。

「え~っと、楽譜にはソと書いてあるぞ。でも俺は今イングリッシュホルンを持っているから、オーボエのソの押さえ方だとドの音が出てしまう。イングリッシュホルンでソを出すためには…そうか、オーボエのレの押さえ方をすればいいんだな!」

こんなことを考えていたら、一音も吹けずに曲が終わってしまいます。どうすればいいでしょうか。

 

同じ押さえ方=同じ音

もう一度先程の音源を聞いてみましょう。よく聞くと、イングリッシュホルンは音が少し低いだけで、一応ちゃんとカエルの歌には聞こえます。つまりキーが低くなっただけですね。

ということは、イングリッシュホルンの「ドレミファミレド」は、オーボエ同様「ソラシドシラソ」と覚えてしまって良いと思いませんか? だってどうせ同じように聞こえるんだから。

(というか、正確には「ドレミファソラシド」とは音名ではなく階名なので、ドをレと覚えようがミと覚えようが本来は構わない)

 

こうすればオーボエ奏者も簡単に持ち替えできます。

「よし、俺は今イングリッシュホルンを持っているけど、楽譜に書いてある音をオーボエの指使いでそのまま吹いちゃうぞ。ちょっとキーが低いけど気にしない気にしない」

 

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…え、そんなの駄目?

でも先程のA君が1カポギターを弾いているときも、A君はCコードを弾いているつもりでしたが、実際に鳴っているコードはC#でしたよね。それと一緒ですよ。何も問題ありません。

 

このように、一人が同じグループ内の多数の楽器を担当する場合、「この押さえ方はどの楽器でもド」「この押さえ方はどの楽器でもレ」と統一してしまったほうが演奏しやすいに決まっています。しかし同属楽器の中にはキーが異なるものも存在するため、結果的に楽譜に書いてある音と実際に出る音が違ってしまうことがあります。

そのような現象を起こす楽器のことを「移調楽器」と呼ぶ、というわけです。

 

 

演奏者にとっては楽なシステムなのですが、作曲者や楽譜を書く人は大変です。イメージしている音と異なる音を楽譜に書かなければいけないのです。

イングリッシュホルンに「ド」の音を出して欲しかったら、作曲者の頭の中では当然ドの音が鳴っているわけですが、楽譜には「ソ」と書かなければいけません。これ、けっこう間違えるんですよ。

 

また、移調楽器が登場する曲のスコアを読む際も注意が必要です。総譜は実音で書いてくれればいいのに、なぜか移調したままの状態で書くので本当に読みづらい。「何だ、この現代的な和音は!」と思っていると、ただの移調楽器だったりします。

 

ちょっと長くなってしまったので続きは後編で。

www.mie238f.com