「運命」という言葉ですっかり定着してしまった、ベートーベンの交響曲第五番。いきなりではありますが、このタイトルは忘れましょうw
この運命というタイトル、一応海外でも通じるようです。例えば英語圏では(日本ほどではないにしても)Fateなどと呼ばれ、中国ではなぜか逆さまになって「命運」と呼ばれています。ちなみに全く関係のない話ですが、中国語では「命運」のように日本語と逆になる単語がたまに登場します。例えば紹介のことを「介紹」と言ったりするんですよ。
しかし一体このタイトル、誰がつけたのか…?
答えは、ベートーベンの弟子のシンドラーです。 ←誰だよwww
誰かが「この曲の最初のジャジャジャジャーンという音は何を表しているのですか?」と聞いたところ、シンドラーが「運命はこのように扉を叩くのだ、とベートーベン先生が言っておられた」と完全な知ったかぶりを披露し、以来なぜか「運命」という名前で定着してしまったのでした。
さて、そんな運命ですが、全部ジャジャジャジャーンでできています。
普通曲を作るときはAメロがあって、Bメロがあって…と、色々メロディを考えるものですが、この曲はそんなことしていません。メロディから伴奏からベースラインから、全てジャジャジャジャーンです。
実は、ベートーベンは大作曲家ではありますが、メロディメーカーではありません。メロディや歌を作るのがとても苦手でした。しかし何かきっかけさえあれば(音楽用語で動機と言いますが)それを次々アレンジして1曲書いてしまうという化け物なのです。その化け物がレベル99になった最終進化形が運命です。ジャジャジャジャーンという4つの音のアレンジだけで35分の大作を書ききってしまったのでした。
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では楽章ごとに軽く見ていきましょう。
1楽章は何度も言っているようにジャジャジャジャーンです。右を向いても左を向いてもこれしかない。何とこの1楽章だけで1000回以上も使い回したらしいです。もちろん私は数えたことはありませんが。私が1楽章の中で一番好きなのは、再現部の最初のほうに出てくるオーボエのソロですね。ベタな趣味だと言われそうですが、ウットリしてしまいます。
では次、2楽章です。変奏曲風のソナタ形式。いや、ソナタ風の変奏曲か? まぁどちらでもいいのですが。
第一主題で長閑な旋律が流れたかと思って油断していると、第二主題でいきなりファンファーレ風になってビックリします。この楽章は全体的に「笑っていたかと思うといきなり怒り出す」みたいな雰囲気があり、ベートーベンってこういう人だったのかなと思うとけっこう怖いです。肝心のジャジャジャジャーンはどこ行ったのかと言うと、低音部や第二主題に隠れています。
次、3楽章です。運命の中で私が一番好きな楽章です。なぜかと言うとカッコイイから。それだけです。5分弱で終わってしまう短い楽章なのですが、さっきは控えめだったジャジャジャジャーンが今度は露骨に登場します。
再現部はやたら静かに演奏され、先程はカッコよかったホルンの第二主題も、クラリネットやオーボエで可愛く吹かれてしまいます。
なんじゃこりゃ? と思っていると、そこからパワーを溜めるかのようにピアニッシモから徐々に徐々にクレッシェンドし、ティンパニも第二主題のリズムを打ちまくり、フルパワーで4楽章に突入します。
4楽章はファンファーレです。ず~っと暗い曲を聞かされてきましたが、一気にパワーと歓喜を爆発させます。冒頭の主題は全員で元気よく「ドーミーソー!」です。おいおい…子供のピアノレッスンじゃないんだからドーミーソー!って…。
だから言ったでしょ? ベートーベンはメロディメーカーじゃないって。
ジャジャジャジャーンもあちこちに登場しますよ。曲全体に3連符+四分音符という音型が使われていますし、露骨なやつは展開部で金管とティンパニが力強く演奏します。
さて、運命をざっくり見てまいりましたがいかがでしたでしょうか。
いや~、しかし分析すればするほど名曲ですね。200年以上も演奏され続けている理由がよく分かります。
なぜ「運命」という関係ないタイトルが定着してしまったか。
きっと、タイトルがあってもなくてもこの曲の素晴らしさは1ミリも揺らがないからでしょうね!