楽式 後編です。
前編「楽典 前編」では二部形式・三部形式など、基本的な形について学びました。
後編では三部形式をさらに進化させて、最終的にソナタ形式にしてみましょう。
ロンド形式
楽曲が2つの部分に分けられるものを二部形式、3つの部分に分けられるものを三部形式と言うのでしたね。
当然、4つなら四部形式、5つなら五部形式です。
ただし「A→B→C→D→E→…」と、全く関係のないメロディが次々登場すると曲にまとまりが無くなってしまうので、大抵は「A→B→A→C→A→…」と、Aメロを間に挟みます。
また、やはり最後は聞き慣れたAメロ(主題)で終わりたいので、項数は奇数となります。
つまり、四部形式とか六部形式という曲は普通はありません。
このように、主題を何度も繰り返しつつ、その間に異なるメロディを挟む形の曲を「ロンド形式」と言います。
五部形式と七部形式が定番ですが、それ以上の曲もあるようです。
また、似たような形の曲としてリトルネロ形式(リトルネッロ形式)というものもあります。
ロンド形式の主題は必ず全て同じ調で演奏されるのに対して、リトルネロ形式の場合、最初と最後以外の主題は主調とは異なる調で演奏されます。
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大ロンド・小ロンド
五部形式のロンド「A→B→A→C→A」は「小ロンド」と呼ばれます。
小ロンドの例。
Ludwig Van Beethoven "Fur Elise" sheet music
0分00秒A
1分11秒頃B
1分37秒頃A
2分13秒頃C
2分47秒頃A
次に、七部形式のロンドに注目しましょう。
先程説明したように、七部形式のロンドは定義的には「A→B→A→C→A→D→A」という構成です。
しかし、これではB・C・Dの3つのメロディはそれぞれ一度しか登場しないので、印象が薄くなってしまいます。
そこで、Dの部分でBを再度演奏してみましょう。
すると「A→B→A→C→A→B→A」となって、これならば全てのメロディにある程度存在感が出ますね。
このようなロンド形式を「大ロンド」と呼びます。
また、このとき「A→B→A」の部分を一つの大きなまとまりとすると、曲全体は「X→Y→X」という構成になり、大ロンドは大きな三部形式であることが分かります。
ソナタ形式
大ロンドとはちょっと異なる「X→Y→X」形式の曲をソナタ形式と呼びます。
これが楽曲の最も整った形とされ、クラシック音楽の形式の頂点です。
細かい部分は曲によって様々なのですが、だいたい次のような形をしています。
最初のXは提示部と呼ばれ、大きく分けると第一主題・第二主題(A・B)という2つの部分から成ります。
第一主題と第二主題は調が異なります。
基本的には、第一主題が長調なら、第二主題はその属調。第一主題が短調なら、第二主題はその平行調です。
第一主題と第二主題は、互いに似たようなものではなく、対照的なメロディが置かれるのが普通です。
第一主題の終わりには「確保」という、主題を覚えてもらうための繰り返し部分があります。
確保の後にはさらに「推移」という、滑らかに転調するための経過句が置かれ、満を持して第二主題に突入します。
確保・推移というと何か難しそうですが、簡単に言えばAメロを2回繰り返す。ただし、2回目の後半部分はBメロに上手く繋ぐために1回目とは違うことをやりますよ、というだけのことです。
次は第二主題ですが、先程説明したように、これは主調とは調が異なります。
終わりの部分は、主調ではなく第二主題自身の調の主和音で締めます。つまり、主調がハ長調だったら、第二主題はCコードではなくGコードで締めます。
第二主題にも確保・推移が置かれますが、これは第一主題のときほど重要視されておらず、省略されることもあります。
さらに、提示部全体の締めとしてコデッタ(小結尾)が置かれます。
コデッタのルールは特にないようですが、第一主題のモチーフを使うのが一般的であること。それから、長くなることは全然構わないのですが、あまり壮大にしてしまうと曲自体が終わったように感じてしまうため、満腹感は出さず、やや軽めにしておく必要があること。
この2点に注意しましょう。
続くY部分は「展開部」と呼ばれ、ここが作曲家の腕の見せどころです。
先程登場した第一主題と第二主題を、キーを変えたり、逆から演奏したり、縮めたり、伸ばしたり…次々とアレンジして新たな作品を生み出します。
提示部は、食材の発表です。
「本日のテーマはジャガイモ(第一主題)と豚肉(第二主題)!」と言われ、展開部ではそれらを実際に料理します。
それぞれを単独で料理する人もいれば、2つを混ぜてしまう人もいます。
鉄人だったらカレーとか肉じゃがとか、もしかしたらシチューやグラタンなんかも作れるかもしれません。
展開部は、特に構成上のルールはありません。つまり「美味しけりゃ何でも有り」です。
そのため「え、これ何処に食材が入ってるの? あ、これ? 少なっ…」という人も中にはいますw
強いて何かルールを挙げるなら、展開部の終わりに主調の属音による保続音を置くことでしょうか。
展開部はコロコロ転調するため収拾がつかなくなってしまいがちですが、保続音を置くことにより主調に戻りやすくなります。
しかし、これも絶対ではありません。
また、そもそも展開部が無い曲も存在するようで、絶対それは定義的にソナタ形式とは呼べないと思うのですが、なぜかそれも「展開部を欠いたソナタ形式」などと呼ばれます。
それが終わると「再現部」です。
これは名前の通り、提示部を再度演奏する部分です。
しかし完全に同じことをするわけではありません。一番の違いは第二主題です。
提示部では主調以外で演奏された第二主題が、再現部では主調で演奏されます。(主調が短調の場合は同主長調)
転調しない理由は単純で、こんなゴール目前で転調されたら曲が綺麗に終われないからですw
しかし、提示部では対立していた第一主題と第二主題が、再現部では同じ調で演奏される。つまり「対立からの融和」というハッピーエンドこそがソナタ形式の醍醐味なのです。
また、第二主題で転調する必要がないため、第一主題後の確保・推移も提示部のときとは変更されます。
第二主題後にはコーダ(結尾)が置かれます。
これも短いものから長いものまで様々で、特に決まりは無いようですが、基本的にはここが曲のクライマックスなので、とにかく盛り上げて終わります。
長すぎ・盛り上げすぎで、第二の展開部と呼んでもいいようなものまで存在します。
では実際の例を見てみましょう。
ソナタ形式について勉強するなら、ソナチネを分析するのが分かりやすいです。(ソナチネとは「小さなソナタ」という意味)
クレメンティのソナチネOp36-1 第一楽章
Clementi : Sonatina Op. 36, No. 1 (1/3)
楽譜1枚目の上段が第一主題。
下段の左側2小節が第一主題の確保。右側2小節が推移です。(ただし、最後の小節を既に第二主題の始まりと解釈することも可能)
楽譜2枚目上段(0分18秒頃から)が第二主題。ト長調に転調しています。
下段がコデッタ。
お客さんに主題を覚えてもらうために、提示部をもう一度繰り返し。
楽譜3枚目(0分44秒頃から)が展開部。
上段が第一主題の展開で、中段が第二主題の展開です。
3枚目下段(0分54秒頃から)が再現部。
再現部は転調する必要がないので、確保・推移が先程とは変化しています。
4枚目中段(1分04秒頃から)が第二主題。先程は属調でしたが、今回は主調のまま。
下段がコーダ
ところで、「ソナタ」と「ソナタ形式」は意味が異なるので注意しましょう。
ソナタ(ソナータ)とは、元々は「器楽曲」という意味で、それがバロック時代になると「複数楽章から成る器楽曲」を指すようになったようです。
その「ソナタ」の中で、主に第一楽章に今説明した形式の曲が用いられたので、これを「ソナタ形式」と呼ぶようになったようです。紛らわしいわwww
変奏曲
最後に、番外編としてこれを軽く紹介して終わりにしましょう。
主題を次々にアレンジして演奏する曲のことを変奏曲と言います。
これは「A→A’→A’’→A’’’→…」とAメロがずっと続くだけなので、今まで解説してきたような形式には属しません。
代表的なのは、やはりコレ。
Mozart: Dodici variazioni per pianoforte su "Ah, vous dirais-je, Maman" KV265
主題+12種類の変奏で構成されています。
右手が複雑になったり、左手が複雑になったり、3連符・短調・カノン風(対位法風)など、様々なバリエーションが見られます。
第11変奏ではテンポがゆっくりになって、最後の第12変奏は3拍子に変化し、コーダで一気に盛り上げて終わります。
また、変奏曲はメロディが同じで伴奏部分が次々と変化しますが、バロック時代には低音パートが同じでメロディが次々と変化する「パッサカリア」「シャコンヌ」という曲も書かれました。
今回の解説は以上です。
しっかり勉強して、そなたは立派な音楽家になるのじゃ!