今回は和声法のお勉強です。
和声って何? と言うと、つまりコード進行論のことです。
もうちょっと突っ込んで言うと、コード進行論はあくまでどの和音からどの和音に行けるか、というマクロな視点であるのに対し、和声法はもうちょっとミクロな視点で、Cのコードの、ドの音はこう、ミの音はこう、ソの音はこう、と細かく見ていく作曲法です。
あまりに細かすぎて、実戦では使えませんw
それぐらい、良い意味でも悪い意味でも美しい技法です。
音大の作曲科を受験するような方は細かいルールまで徹底的に学ばなければいけませんが、そうでない一般作曲民はざっくりと最低限の部分だけ頭に入れておきましょう。
なお、今から始める解説の中で扱う和音は必要最低限のものです。
和声ではもっと様々な和音が登場しますので、そっちについて知りたい方はこちら「和声で扱う和音」をご覧下さい。
では解説を始めましょう。例として次のようなコード進行を考えます。
C→Am→Dm→G7→C
このコード進行を上手く連結させて曲を作るためには一体どうすればいいでしょうか。
例えばこんなのはいかがですか?
壊滅的センスwww 逆に天才www
勿論、これではいけません。もっと美しい曲に仕上げなければいけません。
ではどうすれば美しく仕上がるのかと言うと、そのためのヒント(悪く言えば制約)を次々と提示するのが和声学なのです。
順番に紹介していきたいと思います。
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連続・並達
まずは連続5度の禁止です。これは有名なので、作曲をかじった人なら聞いたことがあるのではないでしょうか。
例えばある声部がド→レと動いたときに、別の声部がソ→ラと動いてはいけませんよ、という話です。
これが和声…いや、クラシック作曲界における最強最大のルールです。これをやったら一発退場。頭部死球です。注意しましょう。
詳しくはこちら「なぜ連続5度は禁則なのか」でも解説しています。
音程に関する禁止事項は他にも連続1度、連続8度、並達1度、並達5度、並達8度など色々あります。
さっき連続5度の説明をしたので、連続1度と連続8度は分かりますよね。
並達とは何かと言うと、2つの声部が共に同じ方向に動くことです。
2つの声部が共に上がって(下がって)後続の音程が8度や5度になることは禁止、というわけです。
とりあえず、並達1度は全部禁止と思っていて問題ありません。
並達5度と8度は「外声間に生じ、かつソプラノが跳躍進行しているときに禁止」です。ナニソレwww
つまり、一番上と一番下のパートでやるのは駄目(譜例左)。
どちらか片方(もしくは両方)が内側のパートであればOK(真ん中)。
一番上と一番下のパートであっても、一番上の音が跳躍してなければOK(右)。ということです。実にややこしい。
このへんが、多くの人が和声で挫折する理由です。
鬼のように細かいルールを延々と覚えさせられ、かと思えば例外も超沢山あるので訳が分からなくなってしまう。
しかし冒頭でも言いましたが、別に細かいルールは気にしなくて構いません。自動車の教習所みたいなもんだと思ってください。標識やら道交法やら色々叩き込まれますが、結局実際の運転では使いませんよね。それと一緒です。事故らなければいいのです。
限定進行音
では次に行きましょう。次は限定進行音です。
これは主にドミナントからトニックへ進行するときに関係してくるのですが、例えば「G7→C」という進行があったときに、G7の構成音ソシレファの中で、シの音はドに行きたがる性質を持ち、ファの音はミの音に行きたがる性質を持つため、これは守りなさいよ。守らないと気持ち悪いよ。ということです。
作曲だけでなく演奏にも応用しやすい理論ですね。
ギタリストの方などはもしかしたらあまり実感しにくいかもしれませんが、ピアニストの方は、このルールを意識するだけでかなり響きが変わりますよ。
基本的に和声のルールを意識して演奏すると、少ない音数でも存在感が出るようになります。
とりあえず、ここまで勉強したルールを使って冒頭のコード進行を上手く連結させてみましょう。
こんな感じです。(下側にローマ数字が振ってありますが、バークリー式とはちょっと違うので、慣れないと読みづらいかもしれません。逆に私は芸大和声式に慣れているので、バークリー式が読みづらくて仕方ないw)
連続とか並達とか、全部回避できていますね。
最初のうちは上手く回避させるのが難しいですが、慣れれば早く連結できるようになりますよ。私はもう何年も真面目に和声をやっていないので、上の譜例を作るのに何度も何度も確認してしまいましたがw
転調・借用
固有和音(ダイアトニックコード)以外の和音を使いたいときはどうすればいいでしょうか。
例えば、ハ長調の曲でD7の和音を使いたいとき、D7とはトニックなのかサブドミナントなのかドミナントなのか、それが分からないと適切な連結ができませんよね。
いきなり答えを言ってしまいますと、和声ではこの場合転調していると考えます。
つまり上のようなコード進行の場合、D7とGの部分で一瞬だけト長調に転調し、GからCに行くときは何事もなかったかのようにハ長調に戻っている、という拡大解釈をします。
その結果、D7は「ハ長調における得体の知れない奴」ではなく、普通に「ト長調におけるドミナント」として 問題なく使用できるのです。何と都合のいいシステム!
ただし、こういうのをいちいち転調だと言っていると煩雑になってしまうため、この程度の転調は一般的には「借用」と言います。
詳しくはこちら「転調 前編」でも解説しています。
さて、転調・借用の際に重要なのは対斜の禁止です。あまり聞かない言葉ですね。対斜、なんじゃそりゃ。
辞書的に説明すると、「前の和音の構成音と後の和音の構成音が異なった声部で半音階的に変化すること」です。
…What? (―"―;)
つまり「C→A7」みたいな進行があったときに、Cに含まれているドと、A7に含まれているド♯は半音階的関係にありますよね。
こういった関係の2音が存在しているときに、このドとド♯を別々の声部に配置してしまうのが対斜。
で、和声学ではこれを禁止しているわけです。
禁止ということは、ドとド#は同じ声部に置きなさいよ、ということです。
同じ声部に置けば、どうせA7の次はDmか何かに行くのだろうから、最終的にド→ド♯→レという流れになって非常に美しい進行になります。一件落着です。
ついでに蛇足ではありますが対斜が許される例を紹介しておくと、後続和音が減七和音(dim)のとき。ナポリからⅤの和音に行くとき。あと「反復進行」というコード進行をするとき。など。
だったらもう全部OKにしちゃえよ…と思うのですが、そういうわけにもいかないのが和声の面倒なところです。
話を戻して、ここで冒頭で作ったコード進行をアレンジしてみましょう。
AmとDmをそれぞれA7とDに変えて、対斜に気をつけながら音を配置していくと次のようになります。
お、だいぶカッコよくなりましたね!
これで和音の連結は問題なく扱えるようになりました。しかし現状では単なる和音の繋がりでしかありませんね。
後編ではコードトーン以外の音の扱い方を勉強して、和音の繋がりを「曲」に進化させましょう。
和声の本を探している方はこちらをご覧下さい。