現代音楽の中でも割と理解しやすい部分が12音技法です。理論が明快なので、適当に音符を置いていけば初心者でもそれっぽい曲ができてしまいます。
というわけで、今回は12音技法についてざっくり見ていきましょう。
まず歴史的なことを説明すると、12音技法は20世紀の始め頃に提唱された理論です。提唱者はシェーンベルクですが、諸説あるようです。
調性音楽がだんだんネタ切れになってきて、転調やら借用和音やらをどんどん拡大させていって、ついに無調まで来て、「1オクターブの中の12の音を全部使っちゃえば?」的なノリで開発された技法です。
無調は訳が分からない…と言うか、まだ理論が体系化されていないので、無調の理論体系化に対する一つのアプローチです。
ピッチクラスセット理論「ピッチクラスセット理論」の特殊型でもあります。
音列を作る
ではどうやって12の音を全部使うか。
簡単です。自分で音階(音列と言います)を考えてしまいましょう。
12の音を1個ずつ使って音列を作ります。できればランダムに配置したほうが調性を感じさせないので好ましいのですが、ここでは説明のために分かりやすい音列にしましょう。
さて、これを使って曲を作成していくわけです。
これらの音を四分音符とか八分音符とかにして、頭から順番に並べていきます。伴奏も和音も全てこの音列を並べていくことで作られます。
あ、ちなみに一つ注意点ですが、一度始めた音列は最後まで使い切ってください。つまりこの場合、ドから始まって、シ♭まで使い切らないといけませんよ。
音を使い切ってしまったらどうするか。
もう一度同じ音列を頭から使用してもいいのですし、考えた音列をアレンジして使っても構いません。
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アレンジその1 移調
半音上げたり、半音下げたり、5度上げたり、好きに変えましょう。正確には移調ではなく移高というのですが。
例えば2度上げると次のようになります。
アレンジその2 逆行形
音列を逆から読みます。この場合、シ♭ ラ♭ ソ♭ … という順番になります。
アレンジその3 反行形
鏡に映したように上下反転させた形にします。この場合、元の形はドレミ…と2度ずつ上がっていますから、反行形はド シ♭ ラ♭ … ですね。
アレンジその4 逆反行形
反行形を逆から読んだものです。
このように様々なアレンジ方法があり、また、逆行形などに対しても移高が可能ですから、アレンジパターンは物凄い数になりますね。
しかし音列さえ考えてしまえばあとは機械的に作曲ができますから、ある意味とても簡単な作曲方法です。
美しい響きやドラマチックな展開を求める調性音楽と違って、現代音楽は無機質な感じや意味不明な響きが特徴ですから、何も気にすることなく音符を置いていけばいいのです。
ではちょっと実際に置いてみましょうか。こんな感じで適当に置いていきます。
元の音列が無調っぽくないので全然それっぽくなりませんがw
あ、一つ言い忘れましたが、音の繰り返しはOKです。同じ音を連打してもいいですし、複数の音を反復させてもいい。
例えばトリルやトレモロは2音の反復と考えられるので、使って構いません。
同音反復はこんな感じ。
複数の音を反復させるとこんな感じですね。
あと先程ちらっと言いましたが、和音も作れます。音列の順番に音を重ねていくだけです。いくつ重ねてもいいですよ。
実際に聞いてみよう
では最後に、実際の作品を見ながら勉強していきましょう。
ウェーベルンの「子供のための小品」です。子供に現代音楽を聞かせる必要があるのかどうかは置いといて、「子供=初心者」と考えれば問題ないでしょう。
どうですか? 音列分かった?
答えは下に記載していますが、見る前にちょっと考えてみて下さい。
ちなみにこのウェーベルンという作曲家は、残された作品が非常に少ないことで有名です。
そんな作曲家が、これから12音を学ぼうと思っている後世の人間のためにわざわざこんな曲を書いていてくれたなんて嬉しいですね。
はい、では正解発表です。音列はこちら。
当たりましたか?
最後の11音目と12音目が和音なので順番が難しいですね。この音列を6回繰り返して終わります。反行形・逆行形などは使っていません。
シンプルですが、無調的な響きや全体の起承転結がしっかり構成されていますね。さすが歴史に名を残す作曲家です。
さて、12音技法について一通り見てまいりましたがいかがでしたでしょうか。
色々説明してから言うのもどうかと思いますが、別にこれらの方法をそのまま使わなくてはいけない、というわけではありません。
12音はもう100年も前に考え出された技法です。今となっては前衛的でも何でもありません。
上手く自分流にアレンジしたり、自分で編み出した新たな理論を組み込んだりして使っていきましょう。
あなたの考えた理論によって、無調音楽が体系化されるかもしれませんよ。
続編的なもの、書きました。