続いては強弱記号について勉強します。奏法記号と多少カブる内容もありますが、まぁ気にしないでいきましょう。
強弱記号の基本となるのはp(ピアノ)とf(フォルテ)の2種類です。pは弱く、fは強くという意味です。これに色々な接頭辞やら何やらを組み合わせながら表します。
速度記号は「♩=100」のように数字でデジタルに表すことができます。強弱記号も数字で書く方法がないわけではないのですが、書かれたところでその通りに演奏できるわけではないので、現代でも感覚的な表記方法が主流となっています。
はて。ところでこの「弱く」という意味のピアノと、楽器のピアノとは何か関係があるのでしょうか。
実は楽器のピアノの正式名称は「クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」と言います(強弱が出せるチェンバロ 的な意味)。チェンバロは音の強弱が出せなかったので、それに対してこう呼ばれました。
それが短くなって「ピアノフォルテ」になり、さらに短くなって「ピアノ」と呼ばれるようになりました。つまり日本語で言うと「強弱チェンバロ」→「強弱」→「弱」となったようなものなので、そのネーミングセンスはどうかと思うのですが…。
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話を戻しましょう。
pやfの記号は、個数が増えると「とても~」という意味になります。例えばppなら「とても弱く」。fffなら「とてもとても強く」です。また「m」が頭に付くと「少し~」という意味になります。
一旦まとめましょう。
このようになっています。
これらの記号はかなり感覚的なものです。しかも面倒なことに、必ずしも機械的に強弱だけを表しているわけではありません。pであれば「優しく」「丁寧に」「落ち着いて」のようなニュアンスを含む場合があります。
例えばモーツァルトのトルコ行進曲の冒頭がpなのですが、別に弱く弾いてる印象は一切ありませんよね。このへんの感覚がなかなか難しい。
強弱記号の話になると必ず引き合いに出されるのがチャイコフスキーの交響曲第6番の1楽章に登場する「pppppp」です。どうやって演奏するの!? と思ってしまいますが、スコアをよく見るとその数小節前からp→ppp→pppp→ppppppとなっている。
つまり「弱く…もっと弱く…も~っと弱ぁ~く…もうちょ~っと…よ~…わ~…く~…」と言われているだけです。あまり難しく考える必要はありません。
この10分40秒あたりですね。案の定何も聞こえませんが、音を大きくしてしまうと次のffで鼓膜が破壊されますので、絶対に音を大きくしないで下さい。
ちなみに解説書などでは「pが6個」と書かれていますが、ここにはpは5個しか書かれていませんね。印刷ミス?
fやpにくっつく代表的な接頭辞としては、subito(突然)などがあります。また、fpのような複合技もあり、これは「音の出だしは強く、その後は弱く」という意味です。特定の音を強くしたい場合は「スフォルツァンド」という記号があり、「sf」「sfz」「fz」のように書かれます。
スフォルツァンドと同じ意味の記号に「アクセント」があり、これは数学の不等号みたいなやつを音符にくっつけることで表します。
厳密には横向きと縦向きで意味が違うようですが、あまり気にすることはありません。
連続的な強弱変化を表したいときはクレッシェンド・デクレッシェンドという記号があり、先程のアクセント記号を横にビローンと伸ばしたような松葉型のマークを書きます。(譜例1)
ドレミファまではだんだん強く、ソラシドはだんだん弱く弾きます。視覚的にも分かりやすい便利な記号なのですが、長い間(数小節にも渡って)変化させたいときは流石に松葉を伸ばすにも限界があるので、譜例2のように文字で書く場合もあります。
その際クレッシェンドはそのまま「cresc.」と書くのですが、なぜかデクレッシェンドは同じ意味の「ディミニュエンド」という言葉に取って代わられ「dim.」と書かれます。「decresc.」と書くとクレッシェンドと紛らわしいからでしょうか…。
私は楽譜を書くとき、いちいち定規を使うのが面倒なので松葉ではなく文字で書いてしまうのですが、良い子の皆さんはちゃんと状況に応じて使い分けましょう。
また、短いデクレッシェンドはアクセントと間違えられやすいので注意が必要です。(実際、シューベルトの直筆譜にはどっちなのか分からないものが多数ある)
最後に、強弱と速度変化を同時に扱う応用編を少し紹介して終わりにします。
基本的には英語のandにあたる「e」をつけてdim. e rit.とかdim. e rall(だんだん弱く、かつだんだん遅く)のように表します。calandoやmorendoのような言葉も同じような意味とされていますが、例えばmorendoは「死に瀕している」のような意味があるので(結果として弱く遅くなる)安易に使うと誤解を招くかもしれません。
この辺は音楽用語と言うよりは、もはやただのイタリア語です。我々だって、日本語でなら同じような意味の言葉を何通りも書けますよね。もしこれらの単語に遭遇してしまったら、その都度辞書を引いて下さいとしか言いようがありません。
さて、今回は強弱記号について勉強しました。
チャイコフスキーの曲は「pppppp」でしたが、音楽を勉強するときは「ffffff」で行きましょう。