続きまして、第二転回形の和音です。
第二転回形とは「ドミソ」のソの音がルートになった形のことです。コードで言うとC/GとかF/Cとか、そういうやつです。
第一転回は、単にルートがドからミに変わっただけ、と解釈することが可能です。しかしこの第二転回形の和音はちょっと特殊です。ルートが変わっただけではないのです。
今からそれを解説いたします。
4度は3度へ
第二転回形の和音に含まれている「ソ→ド」の音程は4度です。この4度の音程が曲者です。試しにピアノで鳴らしてみましょう。
「ソド~」「ソド~」「ソド~」
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不協和音というわけではないんだけど、どことなく落ち着かない気分になりますね。
実はこの4度の音程はけっこう不安定なので、安定した3度の音に解決したくなる性質を持っています。「ソド」の後に「ソシ」が来ることで、和音が安定します。
これなら一件落着ですね。
歴史的には、元々別の和音だったものが(下図譜例1)前の和音が引き伸ばされる形となり(2)最終的に前の和音とか関係なく勝手に音が変化するようになった(3)というわけです。
つまり倚音ですね。「ソシレ」のシとレの音が変化して「ソドミ」になったわけです。
第二転回形の和音というのは独立した和音ではなく、基本形和音の特殊型なのです。「ソドミ」という構成音なので、一見するとCのコードの仲間かと思われますが、実はGのコードの仲間なのです。
「シレ」の音が一時的に変化して「ドミ」になってしまった。しかしそのままでは不安定で存在し続けることができないため、結局元の3度堆積に戻ってくる、というわけです。
物理学的に言うと、電子の励起と一緒です。
エネルギーを得て励起状態になった電子は不安定ですが、エネルギーを放出して元の軌道にストンと落ちることで安定状態に戻ります。それと一緒です。
「ドミ」という励起状態から「シレ」という基底状態にストンと落ちることで安定するのです。
ところで、和声では「シレ」の2音が変化して「ドミ」になりますが、ここでレは変化させずにシだけ変化させたらどうなるでしょうか。構成音は「ソドレ」になって、ポピュラーで言うところのsus4のコードになります。
第二転回形の和音はsus4の仲間なのです。実際のクラシックのスコアを見てみると、第二転回ではなくsus4の形で使っている曲もありますよ。
sus4の後には基本形和音がくっつきます。Gsus4の後にはGです。それはこういう理由だったわけです。
(最近のポップスではGsus4を単独で使う曲をたまに見かけます。Gを経ないで直接Cに行ってしまうのですが、私は考え方が古いタイプの人間なので、正直そういう進行はどうも好きになれません)
偶成和音
…なるほど、よく分かった。しかし実際の曲には第二転回形和音が単独で使われることも多々あると思うんだけど、あれは全部ルール違反と言うことか?
お、やはりそこを突いてきますか。確かに、全てがルール違反というわけではありません。では最後にそれを解説しましょう。
例えば上のような進行があった場合、「ド→ミ」とか「ミ→ド」という跳躍進行を滑らかにするために、間にレの音を入れてみたらどうなるでしょうか。
はい、このような和音進行になります。実は、こういう使い方はセーフなのです。
このような和音を「偶成和音」と言うのですが、偶成和音とは名前の通り偶然に成立した和音です。
今回の場合、別に第二転回形和音を使おうと思ったわけではなく、ドからミに滑らかに進行させるために間にレの音を置いただけなのですが、後からよくよく楽譜を眺めてみたら、偶然にもその部分にG/Dが成立してしまっていた、というだけのことなのです。故意ではないので、これはセーフです。
ポピュラーだと、下のような進行がよく見られますよね。
この場合も、ラからファへルートを滑らかに進行させるためにソの音を間に入れたら偶然にもC/Gが成立してしまっただけなのです。
…え、ちょっと解釈が都合良すぎるって?
確かに私もそう思いますw でもいいじゃないですか。おかげでコード進行のバリエーションが増えるんだから。
さて、今回は第二転回形和音の意外な正体や使い方が明らかになりましたね。
あ、そうそう。倚音やその他の非和声音についてはこちらでも少しですが解説しております。興味のある方はどうぞ。