音楽理論 ざっくり解説

音楽理論をざっくり解説します。最低限のポイントだけ知りたい方へ

絶対音感とは 前編

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巷でよく使われる言葉の割に、あまり理解されていない音楽用語第一位。

そんな絶対音感が今日のテーマです。

 

まず定義から説明すると、絶対音感とは「ある音を聞いたときに、その音名を認識することができる能力」のことです。つまり、ピアノの音でもクラクションの音でも犬の鳴き声でも何でもいいのですが、何らかの音が鳴ったときに、それがドなのかレなのかミなのかが瞬時に分かる、ということです。

しかしこの名前がよくないですね。「絶対音感」って…。なんか必殺技の名前みたいで、それが一般的に誤解を生む原因になっていると私は思います。この名前のせいで、何だか一流音楽家であるための必要十分条件であるとか、普通の人間ではないみたいな感じになってしまっていますよね。

これは英語の「Absolute Pitch」を直訳してしまったためなのですが。「絶対に…」という意味ではなくて、「相対」の反対の意味にすぎないんですよ。

 

あ、ちなみに相対音感という言葉もありますので、それも少し解説しますね。(絶対音感の知名度の割には、残念ながらこちらは全然知られていませんね)

先程絶対音感とは「ある音が鳴ったときに瞬時に音名を認識することができる能力」だと言いました。それに対して相対音感とは、音と音との関係性を瞬時に認識することができる能力のことです。

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分かりやすく言うと、左が絶対音感の反応。右が相対音感の反応です。

絶対音感は「何の音か」ということに注目しています。相対音感は、何の音かは分からないものの、3度上がって2度下がって5度下がって…という「音と音との関係性」に注目していますね。

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「相対音感」という言葉は普段なかなか聞かないので、珍しい能力だと思われるかもしれません。しかし実は、初歩的な相対音感は誰でも持っているのです。

例えばある曲が普段とは違うキーで演奏されても、貴方は違和感なく聞けるはずです。もしかしたら半音ぐらいの違いだったら最後まで気づかないかもしれません。或いはカラオケで曲のキーが高くて歌えないとき、キーを少し下げますよね。その時、どんなキーに設定しようとも歌うことができるはずです。

「そんなの当たり前だろ」と思われるかもしれません。でも、実は絶対音感の人間にとってはこれらの行為は難しい(と言うか、気持ち悪くて仕方がない)ことなのです。

私もキーを変えるとなかなか歌い出せない。伴奏がなくても正しいキーで歌いだすことはできるし、「この曲をト長調で歌って」などと言われれば、それも少し考えれば伴奏なしで出来ます。しかしカラオケのように瞬間的にキーが変わってしまうと、例え伴奏があってもすぐには歌いだせません。むしろ伴奏が邪魔だったりします。

 

何度も繰り返しますが、絶対音感とは「何の音か」に注目する能力です。キーが変わると音が変わってしまう(例えばドがレになってしまう)ので、普段と違うキーで演奏されると気持ち悪くて仕方がないのです。

それに対して相対音感は「音と音との関係性」に注目する能力です。キーが変わっても関係性は全く変化しませんから、全く違和感はありません。

 

小さい頃から楽器をやっていると絶対音感が身につく、とよく言われます。これは半分正しいのですが、半分間違っています。実は、人間は生まれたときは誰でも絶対音感を持っているのです。(勿論、生まれたばかりの赤ちゃんがドレミという音名の知識を持っているわけではありませんが)

しかし日常生活を営む上では相対音感のほうが重要なため、ほとんどの人間は年齢と共に絶対音感が退化してしまう、というわけです。小さい頃から楽器をやっていると、練習するにあたって常に音名を意識するため、絶対音感が退化しないのです。「身につく」のではなく「退化しない」というのがポイントです。

 

人間に限らず、動物はみんな絶対音感を持っています。実際、サルにテンポやキーを変えた曲を聞かせると、元の曲と同じであるとは気づかないそうです。人間も生まれたときはそうなのですが、年齢と共に絶対音感は退化し、相対音感に移行していきます。

 

ではなぜ人間はそんな面倒なことをするのか。

鍵は、言葉です。

人間は言葉を使います。この時、絶対音感よりも相対音感のほうが都合がいいのです。例えば「こんにちは」と言ったとき、それが高い声でも低い声でも(キーが違っても)早口でもゆっくりでも(テンポが違っても)同じ「こんにちは」に聞こえなくてはいけません。相対音感がなかったら、男の「こんにちは」と女の「こんにちは」は違う単語に聞こえてしまいます。これは先程のサルと同じです。ですから人間にとっては相対音感のほうが重要なのです。

 

ちょっと長くなってしまったので、続きは後編で。

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